花柳かりゅう)” の例文
たとえば嫌厭先生が花柳かりゅうちまたに遊ぶにしても或いは役者といつわり或いはお大尽を気取り或いはお忍びの高貴のひとのふりをする。
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
しかし彼は、かなり金ビラをきって情界を遊び廻り、泳ぎまわった割合に、花柳かりゅうちまたでさえ、れた女を、幾度も逃している。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
到るところの花柳かりゅうちまたというところで、自分もこのだらしない雰囲気ふんいきの中に、だらしない相手と、カンカン日の昇るのを忘れて耽溺たんできしていた経験を
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私はかねて申す通り一体の性質が花柳かりゅうたわぶれるなどゝ云うことは仮初かりそめにも身に犯した事のないのみならず、口でもそんな如何いかがわしい話をした事もない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ともかく相撲すもうに出ても、遠乗りの騎にムチを打っても、北京のちまたでは花柳かりゅうおんなまでが、彼の姿を見れば
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女の立ちすぐれた眉目形みめかたち花柳かりゅうの人たちさえうらやましがらせた。そしていろいろな風聞が、清教徒風に質素な早月の佗住居わびずまいの周囲をかすみのように取り巻き始めた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
隣家となり木挽町こびきちょう花柳かりゅう病院の助手だとかいう事で、つい去年の暮看護婦を女房にもらったのである。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
近頃当大学の学生や、諸先生が、よく花柳かりゅうちまたに出入したり、賭博にふけったりされる噂が、新聞でタタカレているようであるが、これは決して問題にするには当らないと思う。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
九如の子は放蕩ものであったので、花柳かりゅうちまたに大金を捨てて、家も段〻に悪くなった。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかるに私の期待はれて、平塚さんたちは「治安警察法第五条の修正」と「花柳かりゅう病男子の結婚制限」という二種の請願を貴衆両院へ提出することを以て第一著の運動とされるのでした。
新婦人協会の請願運動 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
相場をして十万円もうけたとすると、その十万円で家屋を立てる事もできるし、書籍しょせきを買う事もできるし、または花柳かりゅう社界をにぎわす事もできるし、つまりどんな形にでも変って行く事ができます。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なお、私の家は、先祖代々一子相伝いっしそうでんである花柳かりゅう病専門薬を製造していた。天水香というのは自家製の膏薬こうやくの名であり、同時に家の屋号の代用として通用した。よその人は父を天水香はんと呼んだ。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
それによって数百数千の生活が、正しい道に向けられるかもしれないんだ。貧困、腐敗、破滅、堕落、花柳かりゅう病院などから幾十の家族が救われるかもしれない——それが、皆あいつの金でできるんだ。
花柳かりゅうの美なる者を得れば、たちまち養家糟糠そうこうの細君をいとい、養父母に談じて自身を離縁せよ放逐せよと請求するは、その名は養家より放逐せられたるも
徳育如何 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
まもなく、川下の森のようになった柳の木蔭で、探し当てたのは、つなぎ捨てられた屋形船やかたぶねの一つです。夏になると、この宮川が屋形船に覆われて、花柳かりゅうちまたが川の上へ移される。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
生れたのが葺屋ふきや町——昔の芝居座の気分の残る、芸人の住居も多く、よし町は、ずっとそのまま花柳かりゅう明暗の土地であり、もっと前はもとの吉原もあった場処ではあり、葺屋町は殷賑なところで
昔のくだらない花柳かりゅう小説なんていうものに、よくこんな場面があって、そうして、それが「妙な縁」という事になり、そこから恋愛がはじまるという陳腐ちんぷな趣向が少くなかったようであるが、しかし
チャンス (新字新仮名) / 太宰治(著)
花柳かりゅうの間に奔々ほんぽんして青楼せいろうの酒に酔い、別荘妾宅しょうたくの会宴に出入でいりの芸妓を召すが如きは通常の人事にして、甚だしきは大切なる用談も、酒を飲みに戯るるのかたわらにあらざれば
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
この金玉の身をもって、この醜行は犯すべからず。この卑屈には沈むべからず。花柳かりゅうの美、愛すべし、糟糠そうこうの老大、いとうに堪えたりといえども、糟糠の妻を堂より下すは、我が金玉の身に不似合なり。
徳育如何 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)