やど)” の例文
旧字:
曾能子刀自のことに従へば、奈古屋にやどつた此夜、妓を畏れて遁れ避けたものは、渋江抽斎、山田椿町ちんてい、須川隆白の三人であつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
霊といふものが天国へ行くにしても、地獄へ堕ちるにしても、別な物の体にやどるにしても、わたくしは亡くなります。
子胎内にやどれば、母は言語立居たちいよりべものなどに至るまで万事心を用い、正しからぬ事なきようにすれば、生れる子形体正しく器量人にまさるとなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
秦の商鞅しょうおうは自分の制定した法律のために関下かんかやどせられず、「嗟乎ああ法をつくるの弊いつここに至るか」
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
余曰く、『夢中に痛苦を知るは、血気身にあり痛むべきの理あり。神魂これやどる、よく知るゆえんなり。死せる者は土木のごとし、痛むべきの理なし。この理なければこのことなし』
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
昼間これを駱駝のみの宿にやどす(ヘッドレイ『暗黒蒙古行記トランプス・イン・ダーク・モンゴリヤ』五四頁参照)。
武家には奉行ぶぎょう衆のおやど八十ヶ所が一片のけむりと焼けのぼりました。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
己をやどしてくれたのはあの小屋こやだ。
夕雨ゆうだち篠懸乾すずかけほしにやどりけり 斧卜ふぼく
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
即ち山陽をやどした二年の後である。わたくしは墓誌の記する所を以て家督相続をなし、三右衛門と称した日だとするのである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
そしてわたくしの顔に早くも永遠なる髑髏の微笑がやどる時、幾百万かののろい男が同じやうな愉快を感じて接吻をするでせう。どうです。わたくしの話は重複して参りましたかな。
また俗語に神は正直の頭にやどるといい、信あれば徳ありという。能々よくよく考えて見るべし。さてまた仏と申ものは信仰するに及ばぬ事なり。されどあながち人にさかろうてそしるもらぬ事なり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
武家には奉行ぶぎょう衆のおやど八十ヶ所が一片のけむりと焼けのぼりました。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
現に伊沢氏の子孫もつねかつて山陽をやどしたことを語り出でて、古い記念を喚び覚してゐる。譬へば逆旅げきりよの主人が過客中の貴人を数ふるが如くである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
枳園きえんは大磯で医業が流行するようになって、生活に余裕も出来たので、時々江戸へ出た。そしてその度ごとに一週間位は渋江の家にやどることになっていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
昔希臘の芸術家は、神の形を製作するのに、額を大きくして、顔の下の方を小さくした。額は霊魂のやどるところだから、それを引き立たせる為めに大きくした。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
枳園の来てやどる頃に、抽斎のもとにろくという女中がいた。ろくは五百が藤堂家にいた時から使ったもので、抽斎に嫁するに及んで、それを連れて来たのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これが苦労の一つである。またこの界隈かいわいではまだ糸鬢奴いとびんやっこのお留守居るすい見識みしっている人が多い。それを横網町の下宿にやどらせるのが気の毒でならない。これが保の苦労の二つである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)