脚下きゃっか)” の例文
というまでにも、正成は脚下きゃっかの陣へ、一令だにくだしてはいなかったが、心もからだも自分と一つものにそれを見ることができていた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
脚下きゃっかは文字通りの屏風びょうぶのごとき壁立千仭へきりつせんじん、遥か真下に糸のような細さに見える渓流けいりゅうをちょっと覗いただけでたちまち眩暈めまいを感ずるほどの高さである。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
いっさいの建設は個々人が脚下きゃっか照顧しょうこしつつ、一隅いちぐうを照らす努力をはらうことによってのみ可能であることを力説し、最後にそれを青年団と政治の問題に結びつけた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
英雄は古来センティメンタリズムを脚下きゃっか蹂躙じゅうりんする怪物である。金将軍はたちまち桂月香を殺し、腹の中の子供を引ずり出した。残月の光りに照らされた子供はまだ模糊もことした血塊けっかいだった。
金将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
脚下きゃっかは一たい白砂はくさで、そして自分じぶんっているいわほかにもいくつかのおおきないわがあちこちに屹立きつりつしてり、それにはひねくれたまつその常盤木ときわぎえてましたが、不図ふとがついてると
加うるに葡萄牙ポルトガル西班牙スペイン人らは、その西南諸島に加うる権詐けんさ詭奪きだつの手段を以て我に向わんと欲し、しこうして内国の人心は洶々きょうきょうとして、動乱の禍機かきややもすれば宗教をりて、脚下きゃっかに破裂せんとす。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「そおら。読めたろ。脚下きゃっかを見よ、と書いてあるが」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……ほとりには柳やえんじゅのみどりが煙るようだし、亭の脚下きゃっかをのぞけば、蓮池はすいけはちすの花が、さながら袖を舞わす後宮こうきゅうの美人三千といった風情ふぜい
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
足羽九十九橋あすわつくもばし脚下きゃっかにして、そびえたつきたしょうの城は北国一の荒大名あらだいみょう鬼柴田勝家おにしばたかついえがいるとりでである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時ならぬ二人のさけびと、茶碗の砕けたひびきとが、一つになって、居合す人々の耳をおどろかした時、伊織の体は、巌流の脚下きゃっかへ、叩きつけられた小猫のように、もんどり打って投げられていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)