翻然ほんぜん)” の例文
旧字:飜然
そのほか、当代著名の人、富田勢源、戸田一刀斎などの、高名を慕い、住居を追う間に、いつか四年の歳月を空しくした甚助は、翻然ほんぜん
剣の四君子:03 林崎甚助 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もしも本当に斬る気になって、翻然ほんぜんと飛び出して来たならば、そんな五人の遊び人などは、一ぎ二薙ぎで斃されるであろう。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「成程、人出は銀座や日本橋以上だ。この筋だね、榊原君の親父さんが若い時夏帽子を買って翻然ほんぜん基督教キリストきょう帰依きえしたのは?」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
打つの道楽がこうじて、一時は巾着切りの仲間にまで身を落しましたが、今から五年前、別れていた女房の末期まつごいさめに、翻然ほんぜんとして本心に立ちかえり、娘のお富を引取って
この上はみずから重井との関係を断ち翻然ほんぜん悔悟かいごしてこの一身をば愛児のためにささぐべし。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
ところがあるとき丁より、丙はたいへん親切な男である、今これこれの人を世話しているが、まことに感心だと聞き、甲は始めて翻然ほんぜんとしてさとるところあり、ああ、やはり丙は善い人である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
いかな見え坊の細君もここに至って翻然ほんぜん節を折って、台所へ自身出張して、飯もいたり、水仕事もしたり、霜焼しもやけをこしらえたり、馬鈴薯ばれいしょを食ったりして、何年かの後ようやく負債だけは皆済かいさいしたが
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
翻然ほんぜんと、探偵帆村は勇敢に立ち上った。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ギリギリのところで翻然ほんぜんと通達した。
白雪姫 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
今の年になって、悪行の生涯から翻然ほんぜんと気もちの転じてきている九兵衛には、何だか、お粂の行為が、ひとしおあわれに見えました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恋に破れた若侍が、翻然ほんぜん心を宗教に向け、人間の力のあたう限りの難行苦行に身をゆだねてから、五年の歳月が飛び去った。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これが僕の為めには翻然ほんぜんとして自らかえりみる切っかけになった。
四十不惑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その前後には、多感なるばかりでなく、多情の面も性格に見られたが、翻然ほんぜん、禅に入って心鍛しんたんをこころざしてから一変した傾きがある。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翻然ほんぜんとして飛び込んで太刀を上げて、袈裟掛けさがけに日の光を割ったのを、ひっぱずした紋也が突きを入れたのを、今度は兵馬が体形を流して取り直した太刀で横へ払った時に
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
劉璋は、一晩、簡雍を泊めて、次の朝、翻然ほんぜんと悟ったもののごとく、印綬、文籍を簡雍に渡し、ともに城を出て降参の意を表した。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の熱意が孫権をして翻然ほんぜんと心機一転させたものか、或いはすでに孫権の腹中に、魏を見捨てる素地したじができていたに依るものであろうか。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何か翻然ほんぜんと悟ったらしい人間の大きさと幅と、そして文武両面の政務にもつかれを知らない晩年人の老熟とを示してきた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翻然ほんぜんと心を改め、過ぐる頃より武術修行を思い立ち、これより日本国中のあらゆる名人達人を訪ずれて、教えを乞わんため家を出たばかりでござる
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この三名が、やがて、梁山泊のどんなものかを知って、翻然ほんぜんと、仲間入りを約したのは、いうまでもあるまい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
沢庵の鉄槌てっついに感じ、法情の慈悲に泣いて、翻然ほんぜんと人生に薄眼を開いて志を起したのも、この血の力である。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翻然ほんぜんと、彼は呟きを抱いて去った。そして七条の河原を西へ渡り、やがて、佐女牛さめうしの自邸へ帰っていた。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むしろこの際、彼らの首を曹操へ送ってやれば、曹操は遼東を攻める口実を失い、遼東もこのまま安泰なるばかりでなく、翻然ほんぜん、ご当家を重んじないわけにゆかなくなる
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翻然ほんぜんと悟って、聖道しょうどう自力の旧教を捨て、浄土他力の真門に入ったということでござる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翻然ほんぜんと大悟した彼は、無明むみょうやみから光明の中へ、浮かみ出したような気持がした。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
懊悩おうのうのまま年は暮れたが、年もあらたまって、承平しょうへい二年の正月を迎えるとともに、将門は、翻然ほんぜんと考えた。それに似た誓いを独り胸にたたんだ。克己こっきである。馬鹿になろう、馬鹿になろう、である。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武家侠客御曹子の名を翻然ほんぜんとかなぐり捨てた春日新九郎であった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、自分をも顧みて、翻然ほんぜんと、朝倉家の城下へ帰ったのである。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翻然ほんぜんと、彼は、涙の目から、苦笑を光らした。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翻然ほんぜんと、諫めを容れて去った。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)