縁鼻えんばな)” の例文
毎日欝陶うっとうしい思いをして、縫針ぬいはりにばかり気をとられていた細君は、縁鼻えんばなへ出てこのあおい空を見上げた。それから急に箪笥たんす抽斗ひきだしを開けた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
時間通りに起きた津田は、縁鼻えんばなから空を見上げて眉を寄せた。空には雲があった。そうしてその雲は眼に見える風のように断えず動いていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其所そこけると、ひさしせまやう勾配こうばいがけが、縁鼻えんばなからそびえてゐるので、あさうちあたつてしかるべきはず容易よういかげおとさない。がけにはくさえてゐる。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そこを開けると、ひさしせまるような勾配こうばいがけが、縁鼻えんばなからそびえているので、朝の内は当ってしかるべきはずの日も容易に影を落さない。崖には草が生えている。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから一直線いつちよくせんりて、丁度ちやうど自分じぶんつてゐる縁鼻えんばなつちが、霜柱しもばしらくだいたやうれてゐた。宗助そうすけおほきないぬでもうへからころがりちたのぢやなからうかとおもつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
梅子はすぐこの陳腐な質問に答える義務がないかの如く、しばらく縁鼻えんばなに立って、庭を眺めていたが
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから一直線にりて、ちょうど自分の立っている縁鼻えんばなの土が、霜柱をくだいたように荒れていた。宗助は大きな犬でも上から転がり落ちたのじゃなかろうかと思った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もと植木屋ででもあったらしいその庭先には木戸の用心も竹垣の仕切しきりもないので、同じ地面の中に近頃建て増された新らしい貸家の勝手口を廻ると、すぐ縁鼻えんばなまで歩いて行けた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
母がかつて縁鼻えんばなへ出て、兄とを打っていた様子などは、彼ら二人を組み合わせた図柄ずがらとして、私の胸に収めてある唯一ゆいいつ記念かたみなのだが、そこでも彼女はやはり同じ帷子かたびらを着て
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)