紋附もんつき)” の例文
押しつまって何となくあわただしい気持のするある日、正月の紋附もんつきなどを取りに行くと言って、柳吉は梅田うめだ新道しんみちの家へ出掛けて行った。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「今晩はお前の婚礼なんだよ、さあ早く着物を着更きかえなさい」と、いつの間にこしらえたのか紋附もんつき丸帯まるおびなどを出して来て、私に着せたのです。
羊羹色やうかんいろ紋附もんつきさ、短いのを一本差したつきりで、覆面頭巾ふくめんづきんは冠つて居たさうだが、顏はこれを見てくれと言はぬばかりに、さらして居たさうだよ。
この純然たる浪人生活が三十年ばかり続いたのに、源吾は刀剣、紋附もんつきの衣類、上下かみしも等を葛籠つづら一つに収めて持っていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
帰りに本屋へ立寄って礼法全書をのぞいて、結納の礼式、口上などを調べて、さて、当日ははかまをはき、紋附もんつき羽織はおりと白足袋たびは風呂敷に包んで持って家を出た。
佳日 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼女が、心配したとおり、通りがかった例の上品な中年の婦人は、黒い紋附もんつきを、左の肩からすそへかけて、見るも無残むざんに、泥水を一ぱいひっかけられているではないか。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
図書館の扉口とぐちに近い、目録カタログはこの並んでいる所へ、小倉こくらの袴に黒木綿くろもめん紋附もんつきをひっかけた、背の低い角帽が一人、無精ぶしょうらしく懐手ふところでをしながら、ふらりと外からはいって来た。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
是ア惣次郎が居る時分に祝儀不祝儀に着た紋附もんつきだ、汝もれからおらうちが無くなれば一人前の百姓に成るだから、祝儀不祝儀にゃアこういう物もるから、此の紋附一つくればいと云う訳だよ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
鶴見も絹のはかま紋附もんつきを着て、叔母に連れられて後から出掛けて行った。
紋附もんつき仙台平せんだいひらはかま、純白の羽織の紐が目立つ。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
三十五円もしたという赤い襦珍しゅちんの丸帯や、それまでは見たこともないような縮緬ちりめんの長袖や、被布や、はかまや、紋附もんつきや、肩掛かたかけや、下駄げたや、リボンなどがそれであった。
羊羹色やうかんいろのひどい紋附もんつきで、紋所もはつきりはわかりませんでした。羽二重なんかぢやございません。
驚いた事には、僕の知っている英吉利人イギリスじんさえ、紋附もんつきにセルの袴で、おうぎを前に控えている。Kの如き町家の子弟が結城紬ゆうきつむぎ二枚襲にまいがさねか何かで、納まっていたのは云うまでもない。
野呂松人形 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
衣類を黒紋附もんつきに限っていた糸鬢奴いとびんやっこの貞固は、もとより読書の人ではなかった。しかし書巻を尊崇そんそうして、提挈ていけつをそのうちに求めていたことを思えば、留守居中稀有けうの人物であったのを知ることが出来る。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
今日はさすがに権助ごんすけも、はつの御目見えだと思ったせいか、紋附もんつきの羽織を着ていますが、見た所はただの百姓と少しも違った容子ようすはありません。それが返って案外だったのでしょう。
仙人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「その窮屈袋きうくつぶくろ紋附もんつきをかなぐり捨てるんだ」
斉広なりひろがいつものように、殿中でんちゅうの一間で煙草をくゆらせていると、西王母せいおうぼを描いた金襖きんぶすまが、静にいて、黒手くろで黄八丈きはちじょうに、黒の紋附もんつきの羽織を着た坊主が一人、うやうやしく、彼の前へ這って出た。
煙管 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)