)” の例文
人だかりのまん中に立った商人あきゅうど。彼は呉服ごふくものをひろげた中に立ち、一本の帯をふりながら、熱心に人だかりに呼びかけている。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
……だが日当不足となら、清水の舞台から飛んだつもりで、一日十両までり上げましょう。これでは御不満ありますまいな。
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
だから、謂はゞ昔において、ハヤく写生の輪郭を知つて居たやうなものである。さうして、中核をり出させる事を忘れてしまつたものなのである。
橘曙覧評伝 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
美味うまい酒をば飲むだけ飲うで、若い女子こどもは抱くだけ抱いて、それでも生きとれあ仕様がない。又、明日あしたの魚はるだけの話たい……なあ武谷先生……
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
三つのフェルメールの作品を含むすばらしいコレクションをりおとし、持っていた金を安全に始末してしまった。
黄泉から (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
三十三両とり上げ、与八に口を開かせないで、その金を押しつけるようにして短刀と引換えてしまいました。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ともすると、艀が舷側のブリッジの中程までり上って、ガチガチとやると、すっと堕ち込んで離れてしまう。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「力は入るね、尾を取って頭を下げ下げ、段々にるのは、底力は入るが、見ていて陰気だね。」
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この商人も慈心も起せばほの字でもありやしたろう、この商人離車に一牛を遣るからその竜女を放てというも聴かず、因って種々り上げて八牛で相談調い竜女を放った
客と言うのは、友達関係を辿った知人全部で、主人の巽が金槌で卓子テーブルの上を引っ叩き乍らるのですから、滑稽と言えば滑稽、非惨と言えば悲惨、一寸類の無い観物みものでした。
こちらから五百兩にり上げましては、甚だ失禮のやうでもございますが、どうぞわたくしの心のうちも御推察下さいまして、げて五百兩の金子をお納め下さるやうに……。
正雪の二代目 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
歯が一本残らず抜け落ちているので、口を結ぶと、そこから下がグイとり上って来て、眼窪までもクシャクシャと縮こまってしまい、忽ち顔の尺に提灯が畳まれて行くのだ。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
骨董品こっとうひんより始末の悪いのは、ほしい人にあきらめと算盤そろばんとのないことである。その上にまだ仲に立つ才取りのような者があって、さやを取って売るつもりで、一時買っておいてまたらせる。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
自分でも耐えられずに何かり合うように啼き出すのである。
懸巣 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そうやってだんだんり上げて行くのさ。最後の人はこう云うだろう。お母さんの腹の中で暁の鐘をついたとな! つかれたお母さんは驚いたろうなあ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ことごとく高く高くり上つて、重積した横の、斜めの斧劈も露はに千状万態の奇景を眼前に聳立せしめて、しかも雨後の雫は燦々と所在の岩角、洞門のうち響きうち響き
日本ライン (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
峰の松原も、空様そらざまに枝を掻き上げられた様になって、悲鳴を続けた。谷からに生えのぼって居る萱原かやはらは、一様に上へ上へとり昇るように、葉裏を返してき上げられた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
るうちに肩を組んで寄って来た売子の魚屋やつが十コン一円二十銭で落いたとします。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「だんだんり下げて、煮豆屋のお勘子なんか嫌ですぜ、親分」
「それを、あたしとサト子とでるわけ?」
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
以上六首は、彼が客観質を深く持つた人なる事を示すのであるが、同時にかうした題材を、叙事式にでも、こゝまでり上げて来る感激の、彼の胸中に潜むことを窺はしてゐる。
橘曙覧評伝 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
「最後の品はこれだッ、サア、うんと気張ってって下さい」
峰の松原も、空様そらざまに枝を掻き上げられた様になつて、悲鳴を続けた。谷から尾の上に生え上つて居る。萱原は、一様に上へ/\とり昇るやうに、葉裏を返してき上げられた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
つたんです、——好きで遲くなつたわけぢやありませんよ
其等の用例に見えた若干づゝの違ひが、段々原義にりつめて行くやうである。
人麻呂自身のり上げた抒情詩も、黒人だけの観照態度が据ゑられなかつたのも無理はない。黒人の方は寂しいけれども、朗らかである。しめやかであるけれど、さはやかな歌柄である。
叙景詩の発生 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)