あな)” の例文
老宰相とともの者はあなの口へ来て内をのぞいていた。李張はちかけた衣服きものに包まれた白骨を抱いてその眼の前にあらわれた。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あなは、仏体の胎内たいないにでもかたどってあるのか、口はせまく、行くほどに広くなり、四壁には、諸仏、菩薩ぼさつ、十二神将などの像が、りつけられてある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
谷間たにあひゆゑ雪のきゆるも里よりはおそくたゞ日のたつをのみうれしくありしに、一日あるひあなの口の日のあたる所にしらみとりたりし時、熊あなよりいで袖をくはへて引しゆゑ
迷宮へでも入ったように、出口や入口の容易に見つからないその一区画は、通りの物音などもまるで聞えなかったので、宵になるとあなにでもいるようにひっそりしていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
運はお艶を見すてず、押しこめられた鬼のあなにありがたい母の手が待っていたのである。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「實に、愚劣だなア。つく/″\日本といふ國に愛想がついた。……かと言つて、愚劣なことに引つかゝつて、好奇心を動かして、あなの中にこそ/\入るといふのも、愚劣以上の愚劣だけど……」
滑川畔にて (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
鳥が其巣をかれ、獣が其あなをくつがえされた時は何様どうなる。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
急に駈けくだろうとすると、諸所のあなや岩の陰や、裏山のほうから、いちどに地殻も割れたかと思うような喊声かんせい、爆声、罵声ばせい、激声——さながら声の山海嘯やまつなみである。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
又もとのあなへはいりしゆゑわしあなの口に雪車哥そりうたのこゑやすらんとみゝすまして聞居きゝゐたりしが、滝の音のみにて鳥のもきかず、その日もむなしくくれて又穴に一夜をあかし、熊のうゑをしのぎ
したが、あのほこらあなには、三十六員の天罡星てんこうせい、七十二性の地煞星ちさつせい、あわせて百八の魔が封じられていたものを、あなたさまはまあ、恐ろしいことをなされたものでございましたな。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けものの生活を知るには獣のあなに入らねばならぬ。おはずかしいが……」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)