礼心れいごころ)” の例文
旧字:禮心
父はお世辞のない人ですから、こんな土地の人気じんきには合いません。その気性をみ込んで何かと面倒を見て下さる人たちを、お礼心れいごころに招いたのでしょう。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
その礼心れいごころだったのでしょう。稲見はある年上京したついでに、このいえ重代えじゅうだいの麻利耶観音を私にくれて行ったのです。
黒衣聖母 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
が、一枝花しか蔡慶さいけいも、兄の蔡福さいふくも、全然これを、意識的に見のがしていた傾向がある。——さきに梁山泊の密使柴進さいしんから沙金さきん千両をもらっていた礼心れいごころでもあったろうか?
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……さん子さん、一寸ちょっとうたつており。村方むらかたで真似をするのに、いゝ手本だ。……まうけさしてもらつた礼心れいごころに、ちゃんとしたところを教へてあげよう。置土産おきみやげさ、さん子さん、お唄ひよ。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
少し泣き声になってそういいながら、葉子は女将おかみとその妹ぶんにあたるという人に礼心れいごころに置いて行こうとする米国製の二つの手携てさげをしまいこんだちがだなをちょっと見やってそのまま座を立った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
癩坊主かったいぼうずが、ねだりごとうけごうて、千金せんきんかんざしてられた。其の心操こころばえに感じて、些細ささいながら、礼心れいごころ内証ないしょうの事を申す。貴女あなた雨乞あまごいをなさるがい。——てんの時、の利、ひとの和、まさしく時節じせつぢや。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
御新姐ごしんぞが、礼心れいごころで顔だけ振向いて、肩へ、おとがいをつけるように、唇を少し曲げて、そのすずしい目で、じっとこちらを見返ったのが取違えたものらしい。わたくしとこの客人と、ぴったり出会ったでありましょう。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)