目睹もくと)” の例文
じぶんが目睹もくとしたところと藤十郎から聴いた事実をあれこれと照し合せ比べ合せ、頭の中でしきりに結んだり解いたりしていたが、そのうちに
その句の傾向は平生へいぜい目睹もくとする卑近な人事景色の内から、比較的趣味の深い趣向を見つけ出して、屈折をつけて平凡でないように叙するのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
高架線の両側にそびえる高層建築の景観を目睹もくとした時は、久し振に帝都の威容と云うようなものに接した気がして、多少の興奮を覚えないでもなかった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その父親のごとき境遇にあって、愛児の苦痛を目睹もくとしつつ、いかにして人生を感謝することができましょうか。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
しかしながら是等これらは専攻の士を待って論議せらるべきもので、ここにはただ目睹もくとしたる事実を記すに止めて置く。
南北アルプス通説 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
奉行のうちに加わって橋詰から目睹もくとしていた岩沢右兵衛介うひょうえのすけというひとの言に、わが近くに高山豊後守ぶんごのかみなる老士ありしが、この両人を見て、いまだ勝負なき以前
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
何でこの状を目睹もくとして躊躇ちゅうちょすべき。将軍、たちまち着のみ着のまま川の中へ飛び込んで口元をしっかと握り、金剛力をふるい起こし、「エーヤッ」とばかりに引揚げた。
すなわちかりにここに微小な人間があって物質分子の間に立ち交じり原子内のエレクトロンの運動を目睹もくとしているがその視力は分子距離以外に及ばぬと想像する。
物理学と感覚 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これにも簡単な地図を伴のうていたというが、私はその二三点しか目睹もくとしていない。「字名集」の方は幸いにして大部分目を通し、また少々の書抜きをしている。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
右は小生自身したしく目睹もくとして確かめたる事実にて、昨夜馬蹄ばていにかかりて非業の死を遂げたる一酔漢の寓居ぐうきょおいて、御子息はいかがわしき生業を営みおるその娘に
この時演劇は既に今日こんにち吾人ごじん目睹もくとするが如く、セリだしまわり道具、がんどうがえし等あらゆる舞台装置の法を操座あやつりざより応用し、劇場の構造看客かんきゃくの観覧席をもまた完備せしめき。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
最も正直な人間は、誠実なる人間は、この現実を空しく目睹もくとするに忍びなかろうと思う。そして、凝視して、飽迄もその真相を突きとめ、原因を究めようとするにちがいない。
人間否定か社会肯定か (新字新仮名) / 小川未明(著)
かかる荒廃状態を目睹もくとした当時の歴史家は、これを表現する言葉に苦しみ当惑している。
が、それでもかして置きたかった。アレカラ先き当分露国に滞留して革命にも遭逢し、労農政府の明暗両方面をも目睹もくとしたなら、その露国観は必ず一転回して刮目かつもくすべきものがあったであろう。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
この荒涼たる地獄の風景の中で、このような境遇を目睹もくとすることは、さすがに、心寒い思いがするのだった。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
加ふるに文化末年名古屋におもむくの途次親しく諸国の風景を目睹もくとし、ここに多年の修養おのずから完備し来りて、文政六年とし六十余に至り初めて富嶽三十六景図の新機軸をいだせり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いわんや肺病の恋人と肺病の母とを持ち、母の喀血を目睹もくとした彼女の胸中を察すればふびんに堪えない。私はひたすらに彼女の今後における人間としての成功のおぼつかないのを憂慮する。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
ここにひとり、この左膳の乾雲埋没まいぼつをひそかに目睹もくとしていたものがあった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
自分の天幕にたかむらを呼び入れ、この探検の真の目的と、六人にたいする探検隊の無慈悲な策計を手短かに話し、自分の生命の保全のためではなく、自分の研究の結果を目睹もくとするために
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)