目下めした)” の例文
「しかし、天火同人というのは、上長の命に従って、目下めしたの者には服従するなという意味が一番強いのだぞ。それでも良いか。」
馬車 (新字新仮名) / 横光利一(著)
私は、決して、目下めしたの者の持つ卑屈ひくつな考で、自分自身をいやしめることはしなかつた。その反對に、私は、かう云つたのである——
自尊自大、自分の國ばかり尊大で、他國を目下めしたに見下だすと云ふことが、事實に行はれるか行はれないか、如何したつて行はれなからうではないか。
我が夫としてむかえるなど全く己れを侮辱ぶじょくすることだと考えたかも知れぬよろしくこの辺の事情を察すべきであるつまり目下めしたの人間と肉体の縁を結んだことを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それどころか目下めしたの者とさえ交際しているのだということを示すためであろうが、こんなことを言い出した。
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
その金持かねもちのみみに、天下てんかぴん仏像ぶつぞうむらにあることがはいりました。しかも、目下めしたのもののいえにあるとくと、金持かねもちは、もはやじっとしてはいられませんでした。
天下一品 (新字新仮名) / 小川未明(著)
わし目下めしたの者がめえりますとつんとして馬鹿にする訳もありやしねえが、届かねえ、お茶も下さらんで
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
目下めしたの者が、目上のお方さまに、お教へ申すと言ふやうな考へは、神様がお聞き届けになりません。教へる者は目上、をそはる者は目下と、此が神の代からの掟で御座りまする。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
「妹の仇敵を、兄が討てるか。仇敵うちの法に、目下めしたの仇敵を討つことは、禁じてあるぞ」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
忘れ、もの惜しみという事も知らないたちだから、目下めしたの者には人気があるようですね。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
受身うけみの立場からいうたら、目上めうえの人から受けたおんよりも、目下めしたの者から受けたおんのほうが大きいこともある。自分の君公くんこうからおふるかみしも頂戴ちょうだいするのは、昔では非常の恩誼おんぎとみなした。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「それが兄貴の悪い癖なんだ、目下めしたの者をあわれむという心がえんだから」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
田川夫人は例の目下めしたの者にいい慣れた言葉を器用に使いながら、はっきりとこういってのぞき込むようにした。夫妻はすぐ葉子が何をしていたかを感づいたらしい。葉子はそれをひどく不快に思った。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
中津人は俗物であるとおもって、骨肉こつにく従兄弟いとこに対してさえ、心の中には何となくこれ目下めした見下みくだして居て、夫等それらの者のすることは一切とがめもせぬ、多勢たぜい無勢ぶぜい
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
... 目下めしたの者として取扱はうとは思つてゐはしません——といふのは」(と彼は訂正しながら)
淡窓ばかりでない、頼山陽らいさんようなどもはなはだ信じない、誠に目下めした見下みくだして居て
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)