とう)” の例文
旧字:
とうしょうさいというて、盗み食いする味は、また別じゃというほどに、人の女房とても捨てたものではない。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
相伝あいつたう、維亭いていの張小舎、とうを察すと。たまたま市中を歩く。一人の衣冠甚だ整いたるが、草をになう者に遭うて、数茎を抜き取り、ってかわやにゆくを見る。
「君子は義をもってじょうとす。君子くんし勇ありて義なければらんす。小人しょうじん勇ありて義なければとうをなす」と。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
書生が可厭いやさに商売を遣らうと云ふのなら、未だほか幾多いくらも好い商売は有りますさ、何を苦んでこんな極悪非道な、白日はくじつとうすとはうか、病人の喉口のどくちすとはうか
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ここに思いいたりて、白糸はいまだかつて念頭に浮かばざりしとうというなる金策の手段あるを心着きぬ。ついで懐なる兇器に心着きぬ。これなにがしらがこの手段に用いたりし記念かたみなり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
われらは世からぬすといわれています。だが人は言っても、われらの内ではとうは盗でも、ただのあくには終るまい、何か一善は、世間にお返ししようぜと、これは鉄則にしていたはず。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むさぼり民はとうす、争訟やまず、刑罰たえず、かみおごしもへつろうて風俗いやし、盗をするも彼が罪にあらず、これを罰するは、たとえば雪中に庭をはらい、あわをまきて、あつまる鳥をあみするがごとし。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
その私的行動が、忠誠であり、孝道にかなうからといって、公法を無視しようとする意見は、又私論と云わなければならない。孝子がとうをなした場合も、涙をもって刑するのが吏務りむであろう。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)