白扇はくせん)” の例文
切髪の女は小さい白扇はくせんをしずかに畳んで胸に差した——地味じみな色合——帯も水色をふくんだ鼠色で、しょいあげの色彩も目立たない。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
顎鬚あごひげ綺麗きれいに削り、鼻の下のひげを短かく摘み、白麻の詰襟服つめえりふくで、丸火屋まるぼやの台ラムプの蔭に座って、白扇はくせんを使っている姿が眼に浮かぶ。
父杉山茂丸を語る (新字新仮名) / 夢野久作(著)
五郎三郎は機嫌よくみんなに挨拶して、腰から白扇はくせんを取り出してはらはらと使った。庭には薄い日がどんよりとさしていた。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
果心居士かしんこじは、露芝つゆしばの上へでて、手に持ったいちめんの白扇はくせんをサッとひらき、かなめにフッと息をかけて、あなたへ投げると、おうぎはツイと風に乗って飛ぶよと見るまに
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浴衣ゆかたはかまの、白扇はくせんを持った痩せ形の老人が謹厳きんげんに私達を迎えた。役場から見えていたのである。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
見台を前にして、張扇はりおうぎでなく普通の白扇はくせんしゃに構えたところなんぞも、調子が変っている。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
みてあからめもせず燈火うちまもるあり。黙然として団扇うちはの房をまさぐるあり。白扇はくせんばたつかせて、今宵の蚊のせはしさよと呟やくあり。胡栗餅くるみもちほほばりて、この方が歌よりうまいと云ふあり。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
巡査は勿論とがめたかつたと見え、白扇はくせんでO君を指さすやうにした。
O君の新秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
と丹波は、白扇はくせんをひらいて、自分をあおいだ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
やがて口上言ひが、白扇はくせんを開いて
文金島田ぶんきんしまだにやの字の帯を締めた武家の娘が、ともの女を連れてしずかに這入って来た。娘の長いたもとは八つ手の葉に触れた。娘は奥へ通って、小さい白扇はくせんを遣っていた。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
夏のことで白扇はくせんをサラリと開くとふところから贈物の目録もくろく書と、水引みずひきをかけた封金を出して乗せたが
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そういうと、千蛾はさらに畳をすべって、白扇はくせんを寝かしたように平伏しました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて口上言いが、白扇はくせんを開いて
金兵衛さんが紺の透通すきとおった着物を着て、白扇はくせんであおいで風通しのいい座敷に座っていると、顔見知りの老船頭だの、大工の棟梁とうりょうのところの伊三いさというおいだのがかわるがわるに
旧聞日本橋:17 牢屋の原 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
門下生たちは、高台付きの白扇はくせんか、箱入蝋燭ろうそくか、小菊紙十じょうほどな品物に、半年分の授業料として、金一(百ぴき)をつつんで上に「謝儀しゃぎ」と書き、うやうやしく、添えて出すのが、例なのである。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——白扇はくせんが一本。こんな物もしようがねえな」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白扇はくせんをふって勝ちどきをあげた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)