ひと)” の例文
門を出て右へ曲ると、智恵子はちよつと学校を振返つて見て、『気障きざひとだ。』と心に言つた。故もない微笑ほほゑみがチラリと口元に漂ふ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
外には何物をもれる余地のなかつたことを——皆さんが各々てんでに理想のひとを描いて泣いたり笑つたり、うつしたりして騒いで居なさる時にでも
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
今日は万聖節でございますわね。わたし一緒になっていたひとの墓に、今日はきっとお詣りしてお花をげるっていう約束を
碧眼 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
これまで、ずっと愛し通して来たんですのよ、そして永久に! それで、そのひとがこちらへ来れば、グルーシェンカはまた幸福になれるんですの。
ずっと一隅いちぐうによって、白髪しらがの、羽織はかまかくばった感じの老人と、そのほかにも一、二の洋服のひとがいたので、その人たちへの遠慮で、あとのことなどの相談をした。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「あのひと、あんなに急いで帰って、どうするつもりなんでしょう。変ですわネ」
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ほんとに、あの時のいやらしい態度ざまったらありませんでしたわ! ねえ、アンナ・グリゴーリエヴナ、あたしがどんなにあのひとを忌々しく思ったか、とてもあなたにはお分りになりませんわ。
無感動なひとだ、何を考えてるんだろう!——節は聞いていなかった。
不在地主 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
あのひとは、猜疑うたぐり深い目で私を見ながら
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
年中泥棒につてるださうナ、これから広尾へ掛けて貧乏人の巣だから、まつたもんぢやねエやナ、所がおめえ言ひ分が面白いや、書生の大和ツてひとが言ふにやネ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そのひとはすっかりこのかたのことを忘れて、結婚してしまいましたの、今ではやもめになって、今度、こちらへ来るという手紙をよこしたのですって、——ところがね、どうでしょう
ボボフとかいふひと襟飾ジャボーをつけた恰好がこうのとりそつくりだつたが、その人がもう少しでころげるところだつただの、リディナとかいふひとは緑いろの眼をしてゐる癖に自分では碧い眼だと思つてゐるだのと
狂人日記 (旧字旧仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
このかたは今でもそのひとを、ただそのひとひとりを愛しているのです。
「じゃあ一体、誰があのひとの尻押しをしたと仰っしゃいますの?」
養母おつかさん、可哀さうにも花吉にはネ、兼さんとか云ふ様な、実意のひとが無いんですよ、どう芸妓町げいしやまちなどへウロつく奴に、真人間のある筈が無いからネ——あゝ、ほんたうに米ちやんが、うらやましい——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「ええ、どうして? あのひとのやりそうなことじゃありませんの。御存じのとおり、あれは生みの父親まで売り飛ばそうとした人ですもの、売るというより骨牌に賭けるといった方が当っていますけれど。」