玉藻たまも)” の例文
二、三年来『玉藻たまも』誌上に載せた短い俳話を集めて本書が出来た。されば「玉藻俳話」とでも題する方が適切かも知れぬ。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
麻続王おみのおおきみが伊勢の伊良虞いらごに流された時、時の人が、「うちそを麻続をみおほきみ海人あまなれや伊良虞が島の玉藻たまも刈ります」(巻一・二三)といって悲しんだ。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
九尾きゅうびきつね玉藻たまもまえが飛去ったあとのような、空虚な、浅間しさ、世の中が急に明るすぎるように思われたでもあろう。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
たとえば菌採きのことり青物採りなどはそれであったが、青物は採らなくなり菌も栽培にかわると、いわゆるナバ師はみな男になった。『万葉集』には「玉藻たまもるあま少女おとめども」
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
和琴わごん清掻すががきに弾いて、「玉藻たまもはな刈りそ」と歌っているこのふうを、恋しい人に見せることができたなら、どんな心にも動揺の起こらないことはないであろうと思われた。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
玉藻たまもまえとか、伊勢音頭いせおんどとか、ああ云う物はなかなか大阪とは違っていて面白いそうだよ」
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
煙管きせるは女持でも昔物で今の男持よりも太く、ガツシリしたこしらへだつた。吸口の方に玉藻たまもまへ檜扇ひあふぎかざして居る所が象眼ざうがんになつてゐる。……彼は其のあざやかな細工に暫く見惚みとれて居た。
彼は玉藻のために後世ごせを祈ろうとも思っていなかった。畜生にむかって菩提心をおこせと勧めようとも思っていなかった。彼はただ、みくず玉藻たまもとを一つにあつめたその魔女が恋しいのである。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
夕潮に玉藻たまもよるの秋ほそしさばかりをだに命なる歌
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
那須野なすのを吹く風は、どんな色でございましょう。玉藻たまもまえの伝説などからは紫っぽい暗示をうけますが、わたくしの知る那須野の野の風は白うございます。
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
かるいけうら回行みゆきめぐるかもすらに玉藻たまものうへにひと宿なくに 〔巻三・三九〇〕 紀皇女
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
私は今まで主として椰子の実のつぼさかずきなどの方から入ってみようとしたのだが、古くは「玉藻たまもるあま乙女おとめども」とえいぜられたその海の玉藻の用途、「それもてこ」と歌われた色々の貝や石
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
玉藻たまもまえ。きょうはいろいろの御款待おんもてなし、なにかと御苦労でござった」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
寄る波の心も知らで和歌の浦に玉藻たまもなびかんほどぞ浮きたる
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
これは宇野と高松との鉄道連絡船の玉藻たまも丸である。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
玉藻たまもかる敏馬みぬめぎて夏草なつくさ野島ぬじまさきふねちかづきぬ 〔巻三・二五〇〕 柿本人麿
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
すすきすらあまりえない、古塚の中から、真白まっしろうちぎを着て、九尾きゅうびに見える、薄黄の長い袴で玉藻たまもまえが現われるそれが、好評であったので、後に、歌舞伎座で、菊五郎が上演しようとし
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
うらめしや沖つ玉藻たまもをかづくまでいそ隠れける海人あまの心よ
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
昭和五年六月二十九日 玉藻たまも句会。真下邸。
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)