物馴ものな)” の例文
お島のきびきびした調子と、蓮葉はすはな取引とが、到るところで評判がよかった。物馴ものなれてくるに従って、お島の顔は一層広くなって行った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
兵法ひょうほうに曰く柔よく剛を制すと、深川夫人が物馴ものなれたるあつかいに、妖艶ようえんなる妖精ばけもの火焔かえんを収め、静々と導かれて、階下したなる談話室兼事務所にけり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
アイヌの郷土細工の糸巻から、弟の着物と似合ひの色糸を見付けて、針のめどへ通した。それからいかにも物馴ものなれた調子でほころびをつくろひにかゝつた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
「おい、あすこに椅子が二ついている」と物馴ものなれた中野君は階段を横へ切れる。並んでいる人は席を立って二人を通す。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あツと驚いて再び蓋をすると、其中そのなか物馴ものなれた一人が「えてものだ、鉄砲を撃て。」と云ふ。一同すぐに鉄砲をつて、何処どこあてともしに二三ぱつ
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
正直らしいつぶらな眼も、働き者らしい淺黒い顏も、そして物馴ものなれないおど/\した調子も、妙に人をひき付けます。
物馴ものなれた戯れをしかけたものだと思い、下の品であろうが、自分を光源氏と見てんだ歌をよこされたのに対して、何か言わねばならぬという気がした。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
まだ物馴ものなれぬときのことで、弥一右衛門や嫡子権兵衛と懇意でないために、思いやりがなく、自分の手元に使って馴染なじみのある市太夫がために加増になるというところに目をつけて
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「ね、あの腰つきを見たでせう? ああしながらこの子はおしつこをらすんですよ」と保姆さんは言ひながら、物馴ものなれた手つきでその子の前をはだけて、おむつを替へてやるのでした。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
物馴ものなれた旅人が狐の尻尾を腰さげにして、わざとちらちらと合羽かっぱの下から見せ、駕籠屋かごや馬方うまかた・宿屋の亭主に、尊敬心を起こさせたという噂は興味をもって迎えられ、甚だしきはあべこべに
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
物馴ものなれた水戸訛みとなまりの主婦が出て来て私を階下したの奥まった座敷に通した。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
老紳士は深刻な顔つきで、アイスクリームのさじを口へ運んでいたが、たちまち、本来の物馴ものなれた無造作な調子に返った。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
下等はないそうだ。中野君は無論上等である。高柳君を顧みながら、こっちだよと、さも物馴ものなれたさまに云う。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
若い女房が一人車からおりて主人のためにすだれを掲げていた。警固の物々しい騎士たちに比べてこの女房は物馴ものなれた都風をしていた。年の行った女房がもう一人降りて来て
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そこで一休みしてから、「わしはまア後で行くで、お前たちは人力車くるま一足先ひとあしさきへ行っとれ。」と言って、よく東京を知っている父親は物馴ものなれたような調子で、構外へ出て人力車くるまを三台あつらえた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そこへ先刻さっき三沢と約束の整ったという女のあにさんが来て、物馴ものなれた口調で彼と話した。彼はこういう方面に関係のある男と見えて、当日案内を受けた誰彼をよく知っていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とうとう絶体絶命の暴れ方をしだした。小初は物馴ものなれた水におぼれかけた人間のあつかい方で、相手にまといつかれぬようさばきながら、なお少しこの若い生ものの魅力の精をば吸い取った。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
菖蒲しょうぶ重ねのあこめ薄藍うすあい色の上着を着たのが西の対の童女であった。上品に物馴ものなれたのが四人来ていた。下仕えはおうちの花の色のぼかしの撫子なでしこ色の服、若葉色の唐衣からぎぬなどを装うていた。
源氏物語:25 蛍 (新字新仮名) / 紫式部(著)
物馴ものなれたふうで、すぐに
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)