物持ものもち)” の例文
大阪には、先年長逗留の間、先生の創見にかかわる太白砂糖たいはくざとうの製法を伝授して大いに徳とされ、富裕ふゆう物持ものもちの商人に数々の昵懇がある。
自分は△△村の物持ものもちの息子であったが、色々の事に手出しをした為めに失敗して田畑を売り払った。素からの貧乏人でも窃盗でもない。
奥間巡査 (新字旧仮名) / 池宮城積宝(著)
彼は大した物持ものもちの家に生れた果報者でもなかったけれども、自分が一人息子だけに、こういう点にかけると、自分達よりよほど自由がいた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
山中に入って山姥やまうばのオツクネという物を拾い、それから物持ものもちになったかわりに、またこういう出来事があったという。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あね小柄こがらの、うつくしいあいらしいからだかほ持主もちぬしであつた。みやびやかな落着おちついた態度たいど言語げんごが、地方ちはう物持ものもち深窓しんそうひととなつた処女しよぢよらしいかんじを、竹村たけむらあたへた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
その麓のS岳村から五六町離れた山裾やますそに、この界隈かいわいでの物持ものもちと云われている藤沢病院が建っていた。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
安井別宅との門札もんさつ、扨は本町のかど通掛りの人もうなづく物持ものもち、家督は子息にゆづりて此處には半日の頃もふけし末娘、名さへ愛とよぶのと二人先代よりの持傳もちつたへ家藏はおろか
うづみ火 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
「どろぼうがこわいのは物持ものもちしゅうのことよ、こちとらが家はどろぼうの方でおそれて逃げるわ」
らうから初めて徳三郎になつた折の事、ある日北船場きたせんば物持ものもち平野屋の一族が、西桟敷の幾つかを買ひ切つて、見物に来てゐたが、そのなかに別家べつけの一人娘お常といふのがゐて
昨夜は隠居と当主とのめかけの家元、摂津せつつ般若寺村はんにやじむらの庄屋橋本忠兵衛、物持ものもちで大塩家の生計を助けてゐる摂津守口村もりぐちむらの百姓兼質屋白井孝右衛門、東組与力渡辺良左衛門、同組同心庄司義左衛門しやうじぎざゑもん
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
七七 山口の田尻たじり長三郎というは土淵村一番の物持ものもちなり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)