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牝鷄
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めんどり
おつぎは
勘次の
居ない
時は
牝鷄が
消魂しく
鳴いて
出れば
直ぐに
塒を
覗いて
暖かい
卵の
一つを
採つて
卯平の
筵へ
轉がしてやることもあつた。
其上彼は
一窓庵で
考へつゞけに
考へた
習慣がまだ
全く
拔け
切らなかつた。
何所かに
卵を
抱く
牝鷄の
樣な
心持が
殘つて、
頭が
平生の
通り
自由に
働らかなかつた。
其癖一方では
坂井の
事が
氣に
掛かつた。
「
仕事は
何でも
牝鷄でなくつちや
甘く
行かねえよ」といつては
陰で
笑ふのである。