煮焚にた)” の例文
灰及び燒け木は竪穴たてあなすみより出づる事有り、また貝塚の中より出づる事有り。飮食物いんしよくぶつ煮焚にたきは屋内にても爲し又屋外にても爲せしが如し。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
ずっと昔からこの家の習慣で、女が見るものを見るころは家族のものからも離れ、ひとりで煮焚にたきまでして、そこにこもり暮らすという。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私は美味うまい食物によって彼らを釣ろうとしたのであった。彼らは半分なかば人間ではあったが煮焚にたきの術を知らなかった。それを私は利用したのである。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
瓦斯ガスや電熱の設備もあり、一層都合の好いことには幸子の時に水道までも取り附けて簡単な煮焚にたきぐらいは出来るような造作がしてあるのであった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「おまえはもう女房をもらって、家のなかに隠してあるではないか。自分の女房に煮焚にたきをさせて置きながら、わたしにかれこれ言うことがあるものか」
土間には大勢おおぜい女の人達が立ち働いて煮焚にたきをして居る。彼等夫妻はあがって勘五郎さんに苦しい挨拶した。恵比須えびすさまの様な顔をしたかみさんも出て来た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
何にしても当り前でない婆さんが、タッタ一人で煮焚にたきをするので、まことに不要心だから、警察に届けようか、どうしようかと相談しいしい今日まで来ている。
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
たった今まで、召使に交って、厨の内で、煮焚にたきや水仕みずしをしていたことは事実であろう。常の袿衣うちぎを、やや裾高すそだかにくくし、白と紫のひもを、もすそに連れて垂れていた。
オナリドは煮焚にたき調理をする人ということであり、昼間はすなわちお昼の食べ物をそういうのだが、それも田植唄のなかでは長者ちょうじゃのまな娘、どの早乙女さおとめよりも美しく化粧し着かざって
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そういって聞かせても、子供は、(炭やまき煮焚にたきしているのであろう、小里氏の屋根の煙を私は毎日見ている)不思議そうに薄暗い空を見上げて、「飛行機じゃないの」といっていた。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
年は留さんより三つも上だし、八兵衛などをして「ねんがあけた」女ではあるが、留さんはてんで恐悦してしまい、煮焚にたきはもちろん、女の下の物まで洗濯してやっているそうであった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
小身者は煮焚にたきまで自分で出来ぬと身上をば持てぬものだから、以来は小吉が食物などは、当人へ自身にするようにさっしゃるがよいと言ってくれる故、なおなおおれがことはかまわず
是等の中には煮焚にたきの爲、温暖おんだんを取らん爲、又は屋内おくないを照さん爲、故意に焚き火せし跡も有るべけれど、火災くわさいの爲屋根のちたる跡も有らん。屋根の事は次項に記すべし。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
高野こうや豆腐を一つ煮るのにもなかなか面倒な講釈をする老人は、このとしの若い妾を仕込むのに煮焚にたきの道をやかましく云って、今ではお久の料理でなければ口に合わないと云うほどなので
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
年は留さんより三つも上だし、八兵衛などをして「ねんがあけた」女ではあるが、留さんはてんで恐悦してしまい、煮焚にたきはもちろん、女の下の物まで洗濯せんたくしてやっているそうであった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それから煮焚にたきをするお婆さん、住み手はわずか三人と知れた。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
夜はすっかり明けたが、濃い霧がおりていて、二、三げんさきの見透しもつかなかった。路地の左右では、戸外で煮焚にたきをする者が多く、その火の側には男たちか、老婆の姿しか見えなかった。
赤ひげ診療譚:06 鶯ばか (新字新仮名) / 山本周五郎(著)