焼跡やけあと)” の例文
旧字:燒跡
そのとき珍らしく、そのあたりにエンジンの音が聞えだしたと思ったら、それがだんだん近づいてこの交番の焼跡やけあとの前に停った。
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
まだ鉄砲ややりを持つてゐる十四人は、ことばもなく、稲妻形いなづまがた焼跡やけあとの町をつて、影のやうにあゆみを運びつつ東横堀川ひがしよこぼりがは西河岸にしかしへ出た。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ただ稀代なのは、いつの間にやら雨で洗ったように、焼跡やけあとらしい灰もなし、もえさしの材木一本よこたわっておらぬばかりか、大風で飛ばしたか、土礎石どだいいし一つ無い。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
約二十分の後、かれは安藤坂をあがつて、伝通院の焼跡やけあとの前へた。大きな木が、左右からかぶさつてゐるあひだを左りへけて、平岡のいへそばると、板塀いたべいから例の如くしてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
鳥はまたたく間に、かの女の視線をって近くの小森に隠れて行った。残されたかの女の視線は、墓地に隣接するS病院の焼跡やけあとに落ちた。十年も前の焼跡だ。焼木杭やけぼっくいや焼灰等はちり程も残っていない。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
函館はこだてのかの焼跡やけあとを去りし
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
もとの焼跡やけあとだらけの、食料不足の、衣料ぼろぼろの、悪漢あっかんだらけの一九四八年の東京なんかに戻りたいと誰も思わないだろう。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
古老の話によると、旧幕以来、こういう災害のあとには金魚は必ず売れたものである。あらびすさんだ焼跡やけあとの仮小屋の慰藉いしゃになるものは金魚以外にはない。東京の金魚業一同は踏み止まって倍層商売を
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
人影もない深夜しんやの東京の焼跡やけあとの街路を、一つのトランクかばんがふらりふらりと歩いていた、そのトランクを手に下げている人影も見当らないのに
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
赤坂あかさかから青山の通りをぬけ——そこらはみんなむざんな焼跡やけあとだった——それから渋谷しぶやへ出た。渋谷も焼けつくしていたがおまわりさんがつじに立っていた。
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かれは首をひねって、焼跡やけあと四隅よすみにあたるところをシャベルで掘った。下からは土台石どだいいしらしいものが出てきた。その角のところへ、かれは竹を一本たてた。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「それでは、おかみさんの店の焼跡やけあとから、この角のところの一坪の地所を私にゆずって下さいませんか」
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もしや博士は地下室へでものがれたのではないかと、焼跡やけあとを残りなく二メートルばかり掘ってみたが、出てくるものは灰と土ばかりで、なんの手がかりもなかった。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
仔猫が飛び鞄が走るは、その装置化の成功を語っているのではないか。しからばもはや鞄が深夜しんや焼跡やけあとをうろつこうと、真昼のビル街をかすめようと問題ではない。そうでしょうが……
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
事件後焼跡やけあとに立った一同は、カッパのような顔色にならない者はなかった。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)