無我夢中むがむちゅう)” の例文
床屋とこや伝吉でんきちが、笠森かさもり境内けいだいいたその時分じぶん春信はるのぶ住居すまいで、菊之丞きくのじょう急病きゅうびょういたおせんは無我夢中むがむちゅうでおのがいえ敷居しきいまたいでいた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
おなかはすき、からだはへとへと、そして頭がおっこちそうにねむい。新吉はただもう、無我夢中むがむちゅうで働いていました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
そう考えてみると我邦わがくにの料理法なぞは実に迂闊うかつなものだ。何のために食物を料理するのだか無我夢中むがむちゅうっている。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それからは、もう無我夢中むがむちゅうでした。死にものぐるいで走ったのです。まるで、ころがるように走ったのです。
妖人ゴング (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と答えるまでもなく、立ちあがった木隠こがくれが、やらじと猿臂えんぴをのばしたので、きもをとばしたおの大九郎、にげみちをうしなって無我夢中むがむちゅうに松のこずえへ飛びついた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わし矢張やはりその仲間なかまで、んでからしばらくのあいだ何事なにごとらずに無我夢中むがむちゅうすごした。
で、とうとう、まだかれ無我夢中むがむちゅうでいるあいだおおきなにわなかてしまいました。
目をみはっているが、人影も見えない。それなのに、ヒシヒシと肉体の上に圧力がかかってくる。これは赤外線男に抱きつかれたんだと思うと急に恐ろしくなって、あとは無我夢中むがむちゅうだったという。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
すると、にんじんは、無我夢中むがむちゅうで附けたす——
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
一どたおれた蛾次郎がじろう本能的ほんのうてきにはねかえって、起きるが早いか、そばの大樹たいじゅへ、無我夢中むがむちゅうによじのぼった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それからおとっつあんは、無我夢中むがむちゅうで町中を走りました。が、どこにもそれらしい姿が見えないと、町はずれを、東へも南へも、北へも西へもでてみました。だが、それでも見あたりません。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
無我夢中むがむちゅうは、やがてこの垣根かきねそととなった次第しだい
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
征矢そやにくるった馬の上から、もんどり打っておとされた穴山梅雪あなやまばいせつは、あけにそんだ身を草むらのなかより起すがはやいか、無我夢中むがむちゅうのさまで、道もない雑木帯ぞうきたいへ逃げこんだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)