)” の例文
白糸の胸中は沸くがごとく、ゆるがごとく、万感のむねくに任せて、無念かたなき松の下蔭したかげに立ち尽くして、夜のくるをも知らざりき。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
空を眺むる宮が目のうちにはゆらんやうに一種の表情力充満みちみちて、物憂さの支へかねたる姿もわざとならず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
二人の定紋を比翼につけたまくらは意気地なく倒れている。燈心がえ込んで、あるかなしかの行燈あんどう火光ひかりは、「春如海はるうみのごとし」と書いた額に映ッて、字形を夢のようにしている。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
あねさまのはいっている手箱も、書きものの手箱も、折角、かくして、ぽつぽつと溜めた本類も、みんなしてしまわれたりしたが、そんなにしても、妹たちも好きだったので
貴婦人はこの秋霽しゆうせいほがらかひろくして心往くばかりなるに、夢など見るらん面色おももちしてたたずめり。窓を争ひて射入さしいる日影はななめにその姿を照して、襟留えりどめなる真珠はゆる如く輝きぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
うかとつて、えてもかまひませんとはれた義理ぎりではない。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
に彼は火の如何いかえ、如何にくや、とおごそかるが如くまなじりを裂きて、その立てる処を一歩も移さず、風と烟とほのほとの相雑あひまじはり、相争あひあらそひ、相勢あひきほひて、力の限を互にふるふをば、いみじくもたりとや
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)