火皿ひざら)” の例文
杏色あんずいろ薔薇ばらの花、おまへの愛はのろい火で温まる杏色の薔薇ばらの花よ、菓子をとろとろ煮てゐる火皿ひざらがおまへの心だ、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
火皿ひざらは油煙をふりみだし、炉の向ふにはここの主人が、大黒柱を二きれみじかく切って投げたといふふうにどっしりがたりとひざをそろへて座ってゐる。
家長制度 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
白く輝く鸚鵡おうむかんざし——何某なにがしの伯爵が心をめたおくりものとて、人は知つて、(伯爵)ととなふる其の釵を抜いて、あしを返して、喫掛のみかけた火皿ひざらやにさらつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かれはどうしても斷念だんねんせねばならぬこゝろくるしみをまぎらすためふきくはして煙管きせる火皿ひざらにつめてたが
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その途端に燈火ともしびはふっと消えて跡へは闇が行きわたり、燃えさした跡の火皿ひざらがしばらくは一人で晃々きらきら
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
竜之助は短刀を奪い取って身を起すと共に、はったと蹴倒けたおすと、お浜は向うの行燈あんどん仰向あおむけに倒れかかって、行燈が倒れると火皿ひざらこわれてメラメラと紙に燃え移ります。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
チチ、チチ、と山千禽やまちどりのさえずりが聞こえるから、もう夜は明けているのだろうが、世阿弥の側には、魚油をともした火皿ひざらの燈心が、今のかれの命のように、心細く燃え残っている。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
名刺一たび入り、書生二たびでて、山木は応接間に導かれつ。テーブルの上には清韓しんかんの地図一葉広げられたるが、まだ清めもやらぬ火皿ひざらのマッチ巻莨シガーのからとともに、先座の話をほぼおもわしむ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)