洞察どうさつ)” の例文
そしてそのためには、人の心理を洞察どうさつする聡明そうめい智慧ちえと、絶えず同化しようと努めるところの、献身的な意志と努力が必要である。
彼はありふれた洞察どうさつ力によって、隣席の娘の初心な純潔の様子に心を打たれたのだった。彼女の良識と沈着とに感心したのだった。
そしてその男の話に充分の理解と最も明晰めいせき洞察どうさつをもって、今の社会の如何いかに改造すべきや、現内閣の政治上の事に至るまで
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
昔の絵かきは自然や人間の天然の姿を洞察どうさつすることにおいて常人の水準以上に卓越することを理想としていたらしく見える。
からすうりの花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
後世の批評者達はベートーヴェンにはやや虚勢と見得があり、モーツァルトには、偽悪的な自暴な調子があることを洞察どうさつしなければならない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
侠者子路はまずこの点で度胆どぎもかれた。放蕩無頼ほうとうぶらいの生活にも経験があるのではないかと思われる位、あらゆる人間へのするどい心理的洞察どうさつがある。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それに私の話相手の性格を洞察どうさつすることは不可能である——少くとも現在では出來ないことである——ことを感じ、また何も知らないといふことが分ると
禅門の徒の先験的洞察どうさつに対しては言語はただ思想の妨害となるものであった。仏典のあらん限りの力をもってしてもただ個人的思索の注釈に過ぎないのである。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
そして何もかも洞察どうさつしているらしい口吻くちぶりに、って、虚構も云い通せず、ふたたび門内へ入って、彼を外に待たしておいたが、ようやく姿をあらわすと、今度は
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕は、この種の暗号の造作なく解けるものであることを君に納得させ、またその展開の理論的根拠にたいする多少の洞察どうさつを君に与えるために、もう十分話したのだ。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
洞察どうさつの明を欠いてはいなかったか。注意の慎重さを欠いてはいなかったか。いつとなくうっかりしてはいなかったか。おそらく多少その気味があったかも知れない。
それどころか反対に、あなたの深いご洞察どうさつに相応して、それをもっとも人間的で、もっとも人間にふさわしいものと思っておられる。あなたはまたこの機械装置を感嘆しておられる。
流刑地で (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
かれたやうに、富岡は邦子の細面の顔を見てゐた。この秘密を妻に何もも打ちあけたい気がした。富岡は疲れてへとへとな気持ちだつた。妻に、自分の秘密を洞察どうさつして貰ひたかつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
この際、深くこの国を注目し、世界の大勢をも洞察どうさつし、国内のものが同心合体して、太陽はこれからかがやこうとの新しい希望を万民にいだかせるほどの御実行をあげさせられるようにしたい。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その僧は新しい科学の話をも深い洞察どうさつと自信とを以てかれに話した。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「馬鹿言へ。甘糟のかゆきにへんことを僕はちやん洞察どうさつしてをるのだ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
洞察どうさつしていたらしいということだけは言っておこう。
意地悪な光が輝いてるその洞察どうさつ的な眼の鏡の中で、自分のありのままの姿を見てとった。そしてあまり得意にはなれなかった。
平次はもう或る程度の洞察どうさつをして居たのでせう。親切に國松を迎へると、盃をつけて、その前へ押しやつたりするのです。
あなた方はあまり深く人心を洞察どうさつしすぎるよ。あれは倉持がれていたのです。それにちがいはありません。そして嫉妬やきもちも男の方が焼いたのさ。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
つまり彼は、遼東の君臣が、袁家の圧力に対して、多年伝統的に、反感や宿怨こそ持っているが、何の恩顧も好意も寄せていないことを、くに洞察どうさつしていたからである。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
市井の流行風俗、生活状態のようなものはもちろん、いろいろな時代思潮のごときものでも、すぐれた作者の鋭利な直観の力で未然に洞察どうさつされていた例も少なくないであろう。
科学と文学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
恋人と呼ばるる酩酊者めいていしゃにとっては一つの神があるものである。マリユスは盲目でありながら、洞察どうさつの明をそなえていたのと少しも変わらない道をたどったのである。恋は彼の目をおおっていた。
ゆき子は、富岡の心のなかを洞察どうさつしてゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
そして彼女の愛情は、クリストフが押えかねてる情熱の激発にたいして、洞察どうさつ的な微笑を浮かべながらみずからいましめていた。
あの試合を仕かけた彼の目的からそれを洞察どうさつすると、あれは武蔵の売名にやった仕事だ。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宗教は往々人を酩酊めいていさせ官能と理性を麻痺まひさせる点で酒に似ている。そうして、コーヒーの効果は官能を鋭敏にし洞察どうさつと認識を透明にする点でいくらか哲学に似ているとも考えられる。
コーヒー哲学序説 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その直覚力は、病気のために鋭くなり、また、同様な生活のうちに親愛な母親が耐えていた辛苦を思い出しては、さらに洞察どうさつ的になっていた。
歴史の実をもって、現状の変を洞察どうさつし、また時局の底流をあんじ、多年、身は秀吉の一幕下に置いては来たが、心は高く栗原山の山巓さんてんから日本中のうごきと、時代の帰趨きすうとを大観して——或る結論を
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
偶然にもその男から離れると——その洞察どうさつ的な愛が自分の上にのしかかってくるのをもう感じなくなると——自分の身が自由になると——ただちに
楽曲にたいする彼女の洞察どうさつ力を見るとうれしかった。一言いってやったばかりで彼女がその表現すべき感情にぴたりとはまるときには、ことにうれしかった。
彼はまだ女性をよく理解していなかったが、彼女は鈍い洞察どうさつ力をもって女性を批判していた。ことに彼は彼女のおかげで、劇をよりよく理解するようになった。
ただクリストフだけが、膨張したくてたまらず生気にあふれていたので、向こう見ずなしかも洞察どうさつ的な広い同情の念で、彼らから知られないまに彼らを皆包み込んでいた。
生きたる知力の方を、男子にたいして働かし得る知力の方を、彼女は好んでいた。彼女の楽しみとするところは、人の魂を洞察どうさつすることであり、その価値を測定することであった。
それは一種の無意識的な公明さであり、やむにやまれぬ真実の欲求であって、そのために彼は、最も親愛なる人にたいして、ますます洞察どうさつ的になりますます気むずかしくなるのだった。
オリヴィエは、人から遠く離れてるときには、もっとも洞察どうさつの明があってもっとも欺かれなかった。しかしやさしい両の眼の前に出ると、率直な信頼さをもっとも多く見せるのだった。
それなのに、物語音楽を作っていない(というのは、ギュスターヴ・シャルパンティエの通俗物なんかは、物語音楽とは言えないから)。君たちは心理解剖の天分や性格洞察どうさつ力などを利用していない。