歴々れきれき)” の例文
「前後をよくわきまえてから物はいうものじゃ、第一の着到はかくいう弓削田宮内じゃ、お歴々れきれきといえども、着到順から申せば皆後じゃ」
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
「おい、あした、アタピンをこっちへ寄こせ。どうもお歴々れきれきのインテリ御婦人が、マンジどもえとからんでいるから、こっちは苦手だ。アタピンに限る」
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
先生のも、あなたのも、其他皆さんの手によって署せられた皆さんの名が歴々れきれきとして其処にあります。インキもまだ乾かないかと思われるばかりです。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ういへば沢山たんと古い昔ではない、此の国の歴々れきれきが、此処ここ鷹狩たかがりをして帰りがけ、秋草あきぐさの中に立つて居たなまめかしい婦人おんなの、あまりの美しさに、かねての色好いろごの
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
これは決して想像ではない。歴々れきれきとして指摘し得る明白な事実である。しかしてこれがすべての選挙の基礎となり、この運動に依って選挙の勝敗がわかれるのである。
選挙人に与う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
みんな歴々れきれきの令嬢を拝領しているから、会社では大威張りです。俸給も早くあがります。我儘が利く次第わけですけれど、家へ帰ると、頭が上りません。雪子さん雪子さんです」
秀才養子鑑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この言葉は未荘の田舎者はかつて使ったことがなく、もっぱらお役所のお歴々れきれきが用ゆるもので印象が殊の外深く、彼の「女」という思想など、急にどこへか吹っ飛んでしまった。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
さて、お師匠さまのお伝えというのは、きょうなにげなく鞍馬くらまから富士のあたりをみましたところ、いちまつの殺気さっきが立ちのぼって、ただならぬ戦雲のきざしが歴々れきれきとござりました。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、使わないだろう。今日は、これでもこの道のお歴々れきれきが使うのだから。」
野呂松人形 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこで上げられた者は誰だか知らないが、風聞だけはかなりにやかましく、なかには歴々れきれきの旗本さえあって、上げられた以外の者に、あわてふためいて逃げのびたしかるべき士分の者もあったという。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
帆村荘六は、今、愛宕山あたごやまの上に立っている。そこには、警視総監をはじめ、例の田所検事やその他、要路のお歴々れきれきが十四、五名もあつまり、まっくらな山の上で、何ごとかを待っているのだった。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ある歴々れきれき武士ぶしもととつぐことになりました。
「ごらんのとおり、遠乗りにまいられたのだが、にわかの吹き降りに当惑いたし、これなる森かげにかけこんでみれば、この一軒家……ホホウ、道場のお歴々れきれきが、この寮にまいっておられるのか。それはわたしどもはじめ、殿もごぞんじなかった次第で」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
僕アお歴々れきれきの中に殺人犯人がいるものだと思っていたけど、そうじゃないらしいんだってさ。村の疎開者に復員の気違いみたいな文学青年だか政治青年だか、いてね。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「でも九叔きゅうしゅくから差上げられてある紫斑しはん歴々れきれきな兄の遺骨は、なんとご覧なされますな」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
或年のはるぼくは原稿の出来ぬことにすくなからず屈託くったくしていた。滝田くんはその時ぼくのために谷崎潤一郎くんの原稿をしめし、(それは実際じっさい苦心くしんの痕の歴々れきれきと見える原稿だった。)大いにぼく激励げきれいした。
滝田哲太郎君 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
覆面こそしていた由だが、火光歴々れきれき骨柄こつがらから働き振りまで、秦明その者にまぎれなしと、目撃した兵のすべてが一致した声だ。憎ッくい奴め。よくも慕蓉ぼようの恩寵を裏切りおったな。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)