歳暮くれ)” の例文
何事も何事も自分を相談相手にしてゐた夫は、さぞ歳暮くれの忙しさに手廻りかねてゐるであらう、店の者達の仕着せもまだ整へてなかつた。
四十余日 (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
「そうだよ。歳暮くれの忙しいのに、二日も三日も子供をお邪魔さして置いたんでは、先方様に、義理が立たないとか言ってね。」
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「旅をしないんなら、歳暮くれからお正月へかけて少し手伝って頂戴。いろんな用があるのに、横田があの通り懶惰ものぐさだから、私一人で困ってるのよ。」
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「倅の云うには、それが為に忠一さんを態々わざわざ呼び戻すにも及ぶまい。どうで歳暮くれには帰郷するのだから、その時までのばしても差支さしつかえはあるまいと……。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「あまり夜更けぬうちに、おいとまいたします。どうやら雪でも催しそうな寒さ。叔父上も、この歳暮くれへきて、お風邪でも召さないようにお気をつけ下さい」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど平素いつも利益ためになつてる大洞さんのお依頼たのみと云ひ、其れにお前も知つての通りの、此の歳暮くれの苦しさだからこそ、カウやつて養女わがこの前へ頭を下げるんぢやないか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「オイ、自暴やけに寒いと思つたら其筈だ。雪だぜ。」と一人のくはの様なものを担いだ男が云つた。「此土地に歳暮くれの中に雪が降るなんて、陽気の奴、気が違ひやがつたな。」
綽名の由祖ゆらいの「勘弁ならねえ」を呶鳴り散らしている勘弁勘次——神田の伯母から歳暮くれに貰った、というと人聞がいいがじつは無断借用といったところが真実らしい、浅黄に紺の
そこでご相談に上りましたが、今年もいよいよ歳暮くれに逼り新年はるの仕度を致さねばならず、ついては洵に申し兼ねますが、お上のお達しに逆らわない範囲で草双紙をお書き下さるまいか。
戯作者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
是から歳暮くれに成りますると少し不都合で愚痴ぐずばかり云っている処へ、幇間たいこもちの三八
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
髪をれざる働きに俊雄君閣下初めて天に昇るを得て小春がその歳暮くれ裾曳すそひひろめ、用度をここに仰ぎたてまつれば上げ下げならぬ大吉が二挺三味線にちょうざみせんつれてそのおり優遇の意をあきらかにせられたり
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
柳沢は歳暮くれにしこたま入ったかねの中から、先だって水道町の丸屋を呼んで新調さした越後結城えちごゆうきか何かのそれも羽織と着物と対の、黒地に茶の千筋の厭味っ気のない、りゅうとした着物を着て
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
親につかへて、此上無こよなう優かりしを、柏井かしわいすずとて美き娘をも見立てて、この秋にはめあはすべかりしを、又この歳暮くれにはかた有りて、新に興るべき鉄道会社に好地位を得んと頼めしを、事は皆みぬ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
歳暮くれ近いころ、れいの遺産の問題で秋川に会った。秋川は
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
『お高ちやんはこの頃休んでるの、みんな歳暮くれで忙しいもんだから……私も今日きり、お秀さんは風邪ひいたつて、この頃ちつとも來なかつたわ。』
四十余日 (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
「なあに、そいつあ先が安全だからいいじゃねえか。俺なんか、歳暮くれの臨時雇だから、お先真暗で、心細いったらねえよ。……こうなったのも松尾の奴のお蔭だ。」
神棚 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「いや、歳暮くれにも無沙汰をしていますし、どうせ一度行って来なければなりますまい。」
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「オイ、やけに寒いと思ったらそのはずだ。雪だぜ。」と一人ひとりくわのようなものをかついだ男がいった。「この土地に歳暮くれのうちに雪が降るなんて、陽気のやつ、気が違いやがったな。」
築地つきぢ二丁目の待合「浪の家」の帳場には、女将ぢよしやうお才の大丸髷おほまるまげ、頭上にきらめく電燈目掛けて煙草たばこ一と吹き、とこしなへにうそぶきつゝ「議会の解散、戦争の取沙汰とりざた、此の歳暮くれをマアうしろツて言ふんだねエ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「さあ、いつと決めて来たわけでもないが、むこうも歳暮くれから正月にかけて人出入りも多かろうし、なるべく一日も早いがいいだろう。お前の支度さえよければ、あしたにでも目見得めみえに連れて行こう」
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すでに歳暮くれのうち。後醍醐のご処分は
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちょうど歳暮くれのことで
梅若七兵衛 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
歳暮くれに買ってあげたのをかい。」
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「今日は歳暮くれの二十八日さ。」
神棚 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)