此上このうえ)” の例文
道徳的には此上このうえもなく評判の悪い男でしたが、彼がその性格において、田舎いなか源氏の光氏であり、一代男の世之介よのすけであればあるほど
恋の相手とは、なにやら物足らぬ心地もするが、またそなた程のよい若衆が、そう恋い焦れる位なら、定めて此上このうえない美女であろう
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「ただもうお金がたよりだ」といって、確実な知合いに小金を貸したりして、少しずつ貯金をふやして行くのを此上このうえもない楽しみにしていた。
心理試験 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
っても叩いても仕方がない。此上このうえは、お葉の白い手を切るか、冬子の黒い髪を切るか、二つに一つをえらぶのほかは無かった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もう此上このうえ横浜はまに居たって、面白いことは降ってやしないよ。お前たちは苦しくなる一方だ。いい加減かげん見切みきりをつけて、横浜はまをオサラバにするんだ。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼女の生前、私は自分の製作した彫刻を何人よりもさきに彼女に見せた。一日の製作の終りにもそれを彼女と一緒に検討する事が此上このうえもない喜であつた。
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
彼は、何だか、眼前めさきが急に明るくなったように感じられた。腹心の、子飼こがいの弟子ともいうべき子分達に、一人残らず背かれたことは、彼にとって此上このうえないさびしいことであった。
(新字新仮名) / 徳永直(著)
人間が新しい食物にれるまでには蝸牛に対するのと同じ気味きみ悪さを経験したに違いないと主張する。云われて見ればそうかもれないが、日本人にとっては無気味ぶきみ此上このうえもないものである。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
造化の妙といえば妙此上このうえないが、考えてみると滑稽なものですね。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
一般の美人の標準にはずれた、その代りには私丈けには此上このうえもない魅力を感じさせる種類の女性であった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
懐中ふところを探ると、燐寸まっちの箱は空虚からであった。彼は舌打したうちして明箱あきばこほうり出した。此上このうえは何とかして燐寸を求め得ねばならぬ。重太郎は思案して町のかたへ歩み去った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
此上このうえ寂しいあき屋敷にいるより、思い切って、北海道の奥の年老としとったお祖母様ばあさまの許へ行こう、麗子は悲しくもう決心して、そっとやしきを抜け出し、上野停車場へ行こうとして居るところだったのです。
向日葵の眼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
操一氏は桜井栄之丞氏とは私交上でも事業関係でも、此上このうえもない親密な間柄であったから、守に云われるまでもなく、見舞いに駈けつけなければならなかった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
恋敵の前に頭を下げて、物乞ものごいをしている自分自身が、此上このうえもなくみじめに見えた。
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼等の死と共に、彼等の本拠、彼等の製造工場は、跡方あとかたもなく焼きはらわれ、百年に一度、千年に一度の大陰謀も、遂に萠芽ほうがにして刈られてしまった。人類のため慶賀此上このうえもなきことである
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼はあらゆる女性の代表者として、木下芙蓉を、此上このうえ憎み様がない程憎んだ。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そして、頭の中けで色々な空想を廻らしては、これもつまらない、あれも退屈だと、片端かたはしからけなしつけながら、死ぬよりも辛い、それでいて人目には此上このうえもなく安易な生活を送っていました。
赤い部屋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼が依恬地いこじに病気のことを隠していたのも、一つはこういう感情にさまたげられたからであった。尤も一方では、二十三歳の彼には、それを打開けるのが此上このうえもなく気恥しかったからでもあるけれど。
夢遊病者の死 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ということは、あらゆる貧乏人、あらゆる家族所有者の、羨望せんぼうまとである所の、此上このうえもなく安易で自由な身の上を意味するのだが、柾木愛造は不幸にも、その境涯きょうがいを楽しんで行くことが出来なかった。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
綿密此上このうえもない調査がくり返された。併し、何の新発見もない。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)