おばしま)” の例文
この芝生の上にやはり乳白な大理石のいしだたみを敷いて、両側におばしまを立てた美しい遊歩道がうねうねと曲折しながら続いているのです。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
上野は東叡山とうえいざん三十六坊といわれている。ふかい木々と夜霧のあなたに、中堂の廻廊の灯や、文珠堂もんじゅどうおばしまなどがかすかに見える。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
姫は面をさと赤めて一足退きしが、忽ち心を取直したる如く、又手をおばしまにかけて、聲高く。我にも汝にも過分なる事ぞ。かりそめにな思ひそといふ。
春院しゅんいんいたずらにけて、花影かえいおばしまにたけなわなるを、遅日ちじつ早く尽きんとする風情ふぜいと見て、こといだいてうらみ顔なるは、嫁ぎおくれたる世の常の女のならいなるに、麈尾ほっすに払う折々の空音そらね
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
部屋部屋を逃げまどい、廊をはしおばしまを越えなどする彼女らの狂わしいもすそたもとは、その暗澹あんたんを切って飛ぶ白い火、くれないの火、紫の火にも見える。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すべてのさま唯だ一つの四阿屋あづまやめきたり。細きおばしまをば、こゝに野生したる蘆薈ろくわいの、太く堅き葉にて援けたり。これ自然のまがきなり。看卸みおろせば深き湖の面いと靜なり。
おばしまの下をのぞくと、水は青く、橋杭はしぐいの根をめぐって、白い水鳥が、花をいたように游んでいた。このあたりのなぎさにたくさんいるにおであった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おばしまりて遠く望めば、カムパニアの野のかなたなる山々の雄々しき姿をなしたる、固よりかぬ眺なれど、鋪石に觸るゝ劍の音あるごとに、我は其人にはあらずやとワチカアノの庭を見おろしたり。
橋上すでに渦巻いて、血はおばしまにとび、ほりにながれ、死屍ししを踏む者、また死屍へ重なり合うとき、明智方は彼方のほりばたから、銃をそろえて城兵を狙撃そげきし出した。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それで、余の船出も心安い。何かのことども、江戸表へ立ち廻った節上屋敷かみやしきの重役どもに、計ろうて貰うがよい」と座を立って、三位卿と共に船楼ふなろうおばしまに立つ阿波守。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
廻廊におばしまのあるのがそうだし、銅燈籠かなどうろうつらねてあるのも優美に過ぎる。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あのふたりが五条のおばしまで人目もなく並んでいたのを遠くから見たせつな、お通は、足がふるえてしまった。あやうく、めまいがして倒れかけたので、牛車の蔭にかがみ込んでしまったのである。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの大橋のおばしまで、武蔵の胸に顔を押しあてて泣いていたきれいな娘。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)