橋袂はしたもと)” の例文
彼を橋袂はしたもとたせておいて、河原をのぞいていた加賀四郎は、そういいながら、どての細道を探して自分が先へ降りて行く。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
駒形堂こまかたどうの白壁に日脚ひあしは傾き、多田薬師ただのやくし行雁ゆくかり(中巻第七図)に夕暮迫れば、第八図は大川橋の橋袂はしたもとにて、竹藪たけやぶ茂る小梅の里を望む橋上きょうじょうには行人こうじん絡繹らくえきたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
大橋の橋杭はしぐいが昼見た山の塔の高さほどに下から仰がれる、橋袂はしたもとの窪地で、柳の名、雪女郎の根の処である。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
藤木川の左岸に添うて走った馬車が、新しい木橋を渡ると、橋袂はしたもとの湯の宿の玄関に止まった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その両国橋へさしかかったとき、察しの通り、やはり刺客しかくが伏せてあったのです。橋袂はしたもとのお制札場の横から、ちらりと黒い影が動いたかとみるまに、つつさきらしい短い棒がじりッとのぞきました。
そして浅草見附の橋袂はしたもとまでくると、彼方から、まだうら若い女が、生後幾月も経たない嬰児みどりごを負うて、歩いてくる。
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
橋袂はしたもとに、こずえは高く向う峰のむら錦葉もみじの中に、朱の五重塔を分け、枝は長く青い浅瀬のながれなびいた、「雪女郎」と名のある柳の大樹を見て、それから橋を渡越した。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
暗き夜の空より雨ななめに降りしきる橋袂はしたもと、縞の合羽かっぱ単衣ひとえの裾を端折はしょりし坂東又太郎ばんどうまたたろうなかにしてその門弟三木蔵七蔵みきぞうしちぞうらぶら提灯ちょうちんみちを照しつついづれも大きなる煙草入たばこいれ下げたる尻端折しりはしょり
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
小七が指さすところを見ると、なるほど、いま橋袂はしたもとから降りてきた一人の男が、舟のもやいを解きかけている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
追掛けようとする野良をからかさでばッさり留めて、橋袂はしたもとえのきぶッつかりそうな八さんを
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
橋袂はしたもとから、欄干らんかんにかけて、背中ばかり並べている群集の空地を見ると、今、捕手たちが追い込んで来た元の方へ、ふところ手にして、にやりと、笑いをゆがめながら戻ってゆく男がある。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とほくなるやうにえるまで、ひとあしはながれて、橋袂はしたもとひろい。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そう自問自答して、お通は、いそいそと、橋袂はしたもとかご細工屋のほうへ駈けて行く。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元より衣食のみちはつかず、というて、身寄り頼りにすがって、さもしい頭も下げきれず、また、かっしても盗泉とうせんの水はくらわず——と頑固に持して、一同、この街道の橋袂はしたもとに、貧しい納屋なや一軒借りうけ
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
船が、永代えいたいに着くと、橋袂はしたもとに、迎えの灯が待っていた。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)