ばい)” の例文
張郃はかねて調べておいた間道を縫い、夜の二更から三更にかけて、馬はばいをふくみ、兵は軽装捷駆しょうくして、祁山の側面へ迂回しにかかった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
真っ黒ぐろに折り重なった捕手とりての山! 十手の林! しいんとばいをふくんで。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そうすると馬は尻尾の痛苦に辟易していななく元気がなくなると書いてある。どうも西洋人のすることは野蛮で残酷である。東洋ではばいをふくむという、もっと温和な方法を用いていたのである。
俳諧瑣談 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
月を砕いて流るる川のおもを見ると、ばいを含んで渡る人馬の響きがする。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
三の組子くみこに言いつけて、ひとまず、お粂の体は、そこから役宅の方へ運んでおくように言い残し、ばいをふくんで、鼻寺へ近づいたものです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ばいをふくんだ夜討のように、一言も声を立てないで、踊りの庭と幕屋の内外を走り廻り、物を掻集め、ひきほどきひきむすんでいるていは、まさしく隊を組んでこの場を走ろうとする形勢であります。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
黒々と搦手からめてから市外を遠く迂回して、全軍ばいふくみ、必殺の意気をこらしつつ、矢田山の敵本営へ向って進んでいた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼方此方あちこちに、各〻、ばいをふくんで潜伏せんぷくしている同志たちは、この一日、曾てない緊張を示して、石町の本拠ほんきょから
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、北門は江へ舟を出して、夜中に対岸へあがり、これも、玄徳の退路を断つべく、ばいをふくんで待機する。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
五千の偽装兵をしたがえ、張遼、許褚きょちょを先手とし、人はばいをふくみ馬は口をろくし、その日のたそがれ頃から粛々しゅくしゅくと官渡をはなれて、敵地深く入って行った。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兵はばいをふくみ、馬はくちばくし、月下、山をくだって、千曲川の渡渉としょうにかかったころ、漸く、月は没していた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四更、月光を見ながら、ばいふくみ、馬は鈴を収め、降る露を浴びながら、粛々と山の隠し道へすすんで行く。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武田兄弟は、走り帰ると、にわかに兵をまとめ、駒にばいふくませて、味方にも気づかれぬように、富士川の真夜半まよなかを、粛々と岸に沿って上流へ移動しはじめた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小川土佐守おがわとさのかみなど配置よろしくしいておいて、左近将監一益さこんしょうげんかずますばいをふくんで寄せてきたところを、ぎゃくに、ワ——ッとときの声をあげさせて、敵が森へ逃げんとすれば森の中から
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
南外山みなみとやま、勝川を通り、兵は、旗を伏せ、馬は、ばいをふくみ、庄内川を、そっと渡った。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本能寺のほりに迫るまでは、ばいふくんで、喊声かんせいを発すな、旗竿も伏せてゆけ、馬もいななかすな——と軍令されていたが、ひとたび木戸を突破して、町なかへ駈け入るや否、明智の部下はすでに
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三日あれば、川中島衆も、ことごとく徳川勢のうしろまで、ばいをふくんで、つめ寄りましょう。われらも、それぞれ身を変じ、奇兵をひっさげて、彼方此方の要路にひそみ、充分、埋伏まいふくけい
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、人はばいふくみ、馬は口をろくし、深く蜀陣へ近づいた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
折から月明煌々こうこうの下、ばいをふくんで敵陣に近づいた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
じっと、ばいふくんで、待機——)
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)