板片いたきれ)” の例文
古い板片いたきれを繩で縛つて、その繩の端を長くして格子から戸の隙間に入れ、部屋の中で引つ張つてガタガタ、ゴソゴソ言はせたのだ。
祖母おばあさんのかぎ金網かなあみつてあるおもくらけるかぎで、ひも板片いたきれをつけたかぎで、いろ/\なはこはひつた器物うつはくらから取出とりだかぎでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
一方王におとされた金大用きんたいようは、板片いたきれにすがりつくことができたので死ななかった。そして流れてわいへいったところで、小舟に救いあげられた。
庚娘 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
釜帽かまぼうを冠った機械油だらけの職工が、板片いたきれの上に小石を二つ三つ並べて、腰元らしく尻を振り振り登場すると皆、一時にドッと笑い出したりした。
オンチ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
手には丸太や板片いたきれを持っているものもあれば、同心や牢番を叩き伏せてその得物えものを奪うて働くのもあります。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
こうれああ穿れ、ここをどうしてどうやってそこにこれだけ勾配こうばいもたせよ、はらみが何寸くぼみが何分と口でも知らせ墨縄なわでも云わせ、面倒なるは板片いたきれに矩尺の仕様を書いても示し
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
其処そこは塗料の腐る匂いで息が詰りそうである——然し伊藤次郎は、懐中電灯を差しつけながら、散らばっている船具や板片いたきれ掻退かきの蹴飛けとばし、塵も見逃すまじと船底の鉄板をしらべ廻った。
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
従って、後部のハッチデッキを浪でおおう時は、われわれは、本船と切り離された板片いたきれの上にすがっているような心細さを感じた。凍寒はナイフのように鋭く痛くわれらの薄着のはだをついた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
浮いて来る埃塵ごみかたまりや、西瓜すいかの皮や、腐った猫の死骸しがいや、板片いたきれと同じように、気に掛るこの世の中の些細ささいな事は皆ずんずん流れて行くように思われた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)