朝餐あさげ)” の例文
浅間の山麓さんろくにあるこの町々はねむりから覚めた時だ。朝餐あさげの煙は何となく湿った空気の中に登りつつある。鶏の声も遠近おちこちに聞える。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
やう/\女神エジエリアの洞にたどり着きて、われ等は朝餐あさげたうべ、岩間より湧き出づる泉の水に、葡萄酒混ぜて飮みき。
男世帯なる篠田家に在りての玄関番たり、大宰相たり、大膳太夫だいぜんのたいふたる書生の大和おほわ一郎が、白の前垂を胸高むなだかに結びて、今しも朝餐あさげの後始末なるに
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ようやく東が白んだばかりで、低い藁屋から寒そうな朝餐あさげの煙が二すじ三すじ。
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
卯平うへい薄闇うすぐらにはしも下駄げたあとをつけててからもなく勘次かんじしとねつてかまどつけた。それからおつぎが朝餐あさげぜんゑるまでには勘次かんじはきりゝと仕事衣しごとぎかへさむさにすこふるへてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
静子は朝餐あさげの後を、母から兄の単衣の縫直しを呍咐いひつかつて、一人其室に坐つた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
雪は觀て早き朝餐あさげをたおたおと木ぶりをかしく搖りしづけさ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
何といふ單純な朝餐あさげであらう
雨は夜のうちに止んで、濕つた家々の屋根から朝餐あさげの煙の白く登るのが見えた。音一つしなかつた。眠るやうに靜かだ。
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
我等はこゝに朝餐あさげして、公子夫婦は午時ひるどきまで休憩し、それよりうさぎうまやとひてチベリウス帝の別墅べつしよあとを訪はんとす。
雪は観て早き朝餐あさげをたおたおと木ぶりをかしく揺りしづけさ
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
板葺いたぶきの屋根、軒廂のきびさし、すべて目に入るかぎりのものは白く埋れて了つて、家と家との間からは青々とした朝餐あさげの煙が静かに立登つた。小学校の建築物たてものも、今、日をうけた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
瑞巌寺の朝餐あさげの魚板響くなり顔洗ひつつよしと思ひぬ
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
茶の煙かすかなれども現身うつしみ朝餐あさげしろに立てし茶の煙
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)