早朝あさまだき)” の例文
早朝あさまだき日の出の色の、どんよりとしていたのが、そのまま冴えもせず、曇りもせず。鶏卵たまご色に濁りを帯びて、果し無き蒼空あおぞらにただ一つ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
浅草の観世音、その境内の早朝あさまだき、茶店の表戸はざされていたが、人の歩く足音はした。朝詣あさまいりをする信者でもあろう。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今朝けさひがしきんまどから朝日影あさひかげのまだのぞきませぬころむねもだへなぐさめませうと、郊外かうぐわいましたところ、まちからは西にしあたる、とあるかへで杜蔭もりかげに、れば、其樣そん早朝あさまだきに、御子息ごしそくあるいてござる、ちかづけば
これは毎年の慣例しきたりで七月十五日の早朝あさまだきにご神体の幕屋まくやがひらかれるのである。そうして黄金の甲冑かっちゅうで体をよろった宗介様を一同謹んで拝するのであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
婦人慈善会は三日続きの予定なりし、初日よりあやかしがつき二日目の早朝あさまだき、六六館へ出懸くる途次、綾子は内談のすじありて在原夫人を市兵衛町のやかたに見舞えり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
年が返って新年はるになった。天保十一年一月十日、その晴れた日の早朝あさまだきに、一式小一郎は屋敷を出た。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
早朝あさまだき町はずれへ来て、お兼は神通川に架した神通橋のたもと立停たちどまったのである。雲のごときは前途ゆくての山、けぶりのようなは、市中まちなかの最高処にあって、ここにも見らるる城址しろあとの森である。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
師走の末の早朝あさまだきあいの雲、浅葱あさぎの浪、緑のいわに霜白き、伊豆の山路のそばづたい、その苞入つといりの初茄子を、やがて霞の靉靆たなびきそうな乳のあたりにしっかと守護して、小田原まで使をしたのは、お鶴といって
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)