日暮里にっぽり)” の例文
それが緒についてから日暮里にっぽりに間借をして家を持ち、間もなく神田五軒町に一戸を構えて父となった。余は最早もはや放浪の児ではなくなった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
首都の一部に焼畑を意味する地名があるのははなはだ奇ではあるが、徳川家入部にゅうぶの後も日暮里にっぽり与楽寺の庭で将軍が鹿を仕留めたことがある。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
午後に子供を一人つれて、日暮里にっぽりの新開町を通って町はずれに出た。戦争のためにできたらしい小工場が至るところに小規模な生産をやっている。
写生紀行 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
汽車で上野を出発して、日暮里にっぽりという駅を通過し、その「日暮里」という字が、自分のその時の憂愁にぴったり合って、もう少しで落涙しそうになった。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
しばらくはだれも物を言わない。日暮里にっぽりの停車を過ぎた頃、始めて物を言い出したのは、くろうとらしい女連おんなづれであった。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
私はまえに実さんやはじめさんなどと、鶯谷うぐいすだにから上野の山を抜けて道灌山どうかんやままで遊びに行ったことがある。かえりには日暮里にっぽりから三河島を通って帰ってきた。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
明治二十二年己丑十一月森春濤の葬儀が日暮里にっぽり村の経王寺に営まれた時枕山はその女かねに手を引かれてったほどで、耳目もようやく官を失おうとしていた。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
日暮里にっぽり金杉かなすぎから来ているお千代さんは、お父つぁんが寄席の三味線ひきで、妹弟六人の裏家住いだそうだ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
日暮里にっぽり諏訪神社すわじんじゃの境内や、太田おおたが原の真菰まこもの池のそばで、はかない逢瀬おうせを続けていたのでございます
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
田端たばた日暮里にっぽりのあたりのすすけたような風景や、みんなの住んでいた灰色の小さな部屋々々や、毎夜のようにみんなと出かけていった悲しげな女達の一ぱいいたバアや、それから
多くのことは、お袖の父までの、代々の墓所のある日暮里にっぽり村の湧泉寺ゆうせんじで、過去帳をしらべ、和尚にただし、また遠い縁家などをさがし歩いて、聞きまとめたもの故。——それらを
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いずれも一時のがれにあつまっていたところから、それぞれのつてをもとめていったり、地方へにげ出すつもりで、日暮里にっぽり品川しながわのステイションなぞを目あてにうつッていくのです。
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
転じて山の手方面では谷中やなか諏訪すわの台、諏訪明神社前の崖上、ここにも掛茶屋があって、入谷、日暮里にっぽり田圃たんぼ越しに遠く隅田川、紫がかった筑波の姿まで眼界広濶こうかつ、一碗の渋茶も嬉しい味
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
というので是から訴えになりましたが、葛籠に記号しるしも無い事でございますからとんと何者の仕業しわざとも知れず、大屋さんが親切に世話を致しまして、谷中やなか日暮里にっぽり青雲寺せいうんじへ野辺送りを致しました。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
当日、僕は車で、その催しがある日暮里にっぽりのある人の別荘へ行った。二月の末のある曇った日の夕方である。日の暮には、まだがあるので、光とも影ともつかない明るさが、往来にただよっている。
野呂松人形 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
東京、日暮里にっぽりの周施屋から来たもので、一緒の仲間が十人程いた。然し、監督は次の日の仕事に差支えると云うので、仕事に出ていない「病気のものだけ」で、「お通夜」をさせることにした。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
日暮里にっぽりへ来ると、灯影ひかげが人家にちらちら見えだした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
陸橋を渡るとそこらの家の表札は日暮里にっぽりとなっている。昨日の雨でぐじゃぐじゃになった新開街路を歩いているとラジオドラマの放送の声がついて来る。
子規自筆の根岸地図 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
四季絶間なき日暮里にっぽりの火の光りもあれが人を焼くけぶりかとうら悲しく、茶屋が裏ゆく土手下の細道に落ちかかるやうな三味の音を仰いで聞けば、仲之町なかのちょう芸者がえたる腕に
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こんな家に住むのはいやだなと思い、路地から路地を抜けて動坂の電車通りへ出て、電車通りをつっ切り染物屋の路地へ這入はいると、ここはもう荒川区日暮里にっぽり九丁目になっている。
貸家探し (新字新仮名) / 林芙美子(著)
こんどは、日暮里にっぽり諏訪神社すわじんじゃの境内で、同じような事件が起きた。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「な、な、なんでも、日暮里にっぽりだと申しておりました」
顎十郎捕物帳:06 三人目 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)