めぐら)” の例文
其父そのちちたたかひて(七三)くびすめぐらさずして、つひてきせり。呉公ごこういままた其子そのこふ。せふ(七四)其死所そのししよらず。ここもつこれこくするなり
ソロドフニコフはくびすめぐらして、忽然大股にあとへ駈け戻つた。ぬかるみに踏み込んで、ずぼんのよごれるのも構はなかつた。
やがて重き物など引くらんやうに彼のやうやきびすめぐらせし時には、推重おしかさなるまでに柵際さくぎはつどひしひとほとんど散果てて、駅夫の三四人がはうきを執りて場内を掃除せるのみ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
お客はくびすめぐらして逃げた。これで命に別状はない。昼のお客はその跡からぞろぞろ出て、曲馬場をあけた。
防火栓 (新字旧仮名) / ゲオルヒ・ヒルシュフェルド(著)
山城の朱雀野しゅじゃくのに来て、律師は権現堂に休んで、厨子王に別れた。「守本尊を大切にして往け。父母の消息はきっと知れる」と言い聞かせて、律師はくびすめぐらした。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかるについに現行犯のところを見付けられた。まず懸金を揚げて門を開け出で、身をめぐらし尻で推してこれを閉じ、納屋に到って戸の扃を抜くと戸自ずから開くのだ。
されど哀れ深き御物語を聞きつとこそ思ひまゐらすれ、人に告ぐべきにはあらねば、惡しく思ひ取り給ふなといふ。われはの惡さを忍びて夫人に禮を施し、友と共にくびすめぐらしたり。
そして新小梅町、小梅町、須崎町の間を徘徊はいかいして捜索したが、嶺松寺という寺はない。わたくしは絶望してくびすめぐらしたが、道のついでなので、須崎町弘福寺こうふくじにある先考の墓に詣でた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
わがくびすめぐらしてかへらむとするとき、馬よ/\と呼ぶ聲俄にかまびすしく、競馬の内なる一頭の馬、さきなるらちにて留まらず、そが儘街を引きかへし來れるに、最早馬過ぎたりと心許しゝ群衆は
わたくしは好劇癖かうげきへきがあつたので、歩をとゞめて視た。さて二三町行つて懐を探ると、金が無かつた。わたくしは遺失したかと疑つて、くびすめぐらして捜し索めた。しかし金は遂に見えなかつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
この中庭には舟に帆掛けて入るべけれど、舳艫ぢくろめぐらさんことはかたかるべし。
棠軒は阿部正方の軍にあつて、進んで石見国邑智郡粕淵おほちごほりかすぶちに至つた。時に六月十三日であつた。正方は此より軍をめぐらし、七月二十三日に福山に還つた。将軍家茂の大坂城に薨じた後三日である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)