旅宿やどや)” の例文
で、旅宿やどやの一で出来るだけ小さくなつて、溜息ばかりいてゐると、次の日曜日の朝、夫人は金糸雀かなりやのやうな声ではしやぎ出した。
馬車が旅宿やどやの前に止った。私は馬車の中で挨拶をして、手提を持って降りた。家にはいろうとすると、後の馬車からも、男も娘達も降りて来た。
遠野へ (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
なじみにると、町中まちなか小川をがはまへにした、旅宿やどや背戸せど、そのみづのめぐるやなぎもとにもて、あさはやくから音信おとづれた。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
旅宿やどやへ踏み込まれて、伯父は二階のひさしから飛び下りる途端、庭石に爪付つまずいて倒れる所を上から、容赦なくられた為に、顔がなますの様になったそうである。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
処の風と云うものは妙なもので、充溢いっぱいの人立ちでございます。太田屋という旅宿やどやがございまして、其の家に泊って居りますのは橋本幸三郎に岡村由兵衞でございます。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
中津なかつ出帆しゅっぱんの時から楽しんで居た処が、神戸に上陸して旅宿やどやついて見ると、東京の小幡篤次郎おばたとくじろうから手紙が来てあるその手紙に、昨今京阪の間はなはだ穏かならず、少々聞込ききこみし事もあれば
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
彼は一ちょうばかり往ったところで、一軒の旅宿やどやを見つけたので入って往った。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
日も温かに鳥の聲も麗かなりぶらり/\と語りながら行くに足はつかれたり諏訪すはの湖水はまだ見えずや晝も近きにといふうちしもの諏訪と記したる所にいでたり旅宿やどやもありこゝならんと思へばこれは出村にてまだ一里といふ
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
でも、可厭いやらしく、変ににおうようで、気味が悪くって、気味が悪くって。無理にも、何でもお願いしてと思っても、旅宿やどやでしょう、料理屋ですもの、両方とも。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
伯父おぢが京都で殺された時は、頭巾を着た人間にどや/\と、旅宿やどやに踏み込まれて、伯父は二階のひさしから飛びりる途端、庭石に爪付つまづいて倒れる所をうへから、容赦なくられた為に
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
私は次の日一日は、この旅宿やどやの二階にひとりでぼつねんとしていねばならぬ。
遠野へ (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
高浜虚子氏が以前なんかの用事で大阪に遊びに来た事があつた。その頃船場せんば辺の商人あきうど坊子連ぼんちれんで、新しい俳句に夢中になつてる連中は、ぞろぞろ一かたまりになつて高浜氏をその旅宿やどやに訪問した。
またを上げて飛んで来たように見えたのですけれど、変な事は——そこの旅宿やどやと向うの料理屋の中ほどの辻の処からだったんだそうでございましてね——灰色の雲の空から、すーっと
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そこの旅宿やどやの角まで、飯田町の方から来ますとね、わたしくるまだったんですけれど、ほろかかっていましたのに、何ですか、なまぬるい、ぬめりと粘った、濡れたものが、こっちの、この耳の下から頬へ触ったんです。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)