ぬき)” の例文
レオポルド大公はバッハをぬきんでて、宮廷礼拝堂管弦団の楽長に任じ、バッハは夫人と大勢の子供達をつれて、ケエテンに出発した。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
彼等は果して赤裸々まっぱだかの個人として見て、それ程の人物であったか、其の言う所行う所、吾人凡俗を遥かにぬきんでていたのであるか。
論語とバイブル (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
文政八年随斎が本藩安濃津あのつに開かれた藩校の講官にぬきんでられて江戸を発する時、竹渓は七古一篇を賦してその行を送ったことがある。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その各々のエッセンスをぬきんで、理解し、其専門化して歪められたる方向を正しきに引き戻すのは、文学者の綜合的知識と批判をつの他は無い。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
即ち自身の他にぬきんでて他人の得て我に及ばざる所のものをたのみにするのいいにして、あるいは才学の抜群なるあり、あるいは資産の非常なるあり
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
この高原は高い山でかこまれていたが、そのすべてにぬきんでる男体は、遠く行けば行く程、近くなるように見えた。図85はここから見た男体である。
文部大臣が三君の中先ず第一に坪内君をぬきんで報ゆるに博士の学位を以てしたのは推薦者たる大学もまた坪内君の功労を認めざるを得なかったのであろう。
古来から顕職けんしょくの栄位にぬきんでられて、却ってために、家を亡ぼし、身を害した者が史上にも多い。そのもとを思うに、みな、門閥もんばつと内室のわずらいから起っておる。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わが子のかうべぬきんでられて、やもめとなれる冠を戴き、かの受膏じゅかうやから彼よりいでたり 五八—六〇
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
旅費に窮している世高は、そこで世話になって科挙かきょに応ずることになり、読書に心をひそめていたが、やがてその日がきたので、試験に応じてみると及第して高科にぬきんでられた。
断橋奇聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
森なす大芭蕉おおばしょうの葉の、沼の上へぬきんでたのが、峰から伸出のしだいてのぞくかと、かしらに高う、さながら馬のたてがみのごとく、たとえば長髪を乱したていの、ばさとある附元つけもとは、どうやらやせこけた蒼黒あおぐろ
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しんもと卑賤ひせんなり、きみこれ(五)閭伍りよごうちよりぬきんで、これ大夫たいふうへくはふ。
此の南勝房という坊さんが覚海上人のことであって、順徳院の建保五年に高野山第三十七世執行検校法橋上人位にぬきんでられたというから、ざっと今から七百年前、鎌倉時代の実朝の頃の人である。
覚海上人天狗になる事 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
旋風つむじかぜのやうに駆けて来る。その群が近づいたのを見ると、どれよりもぬきんでゝ、真つ先を駆けてゐるのは、きのふワシリが乗つて来た鼠色の馬である。一歩毎にその馬と外の馬との距離が遠くなる。
パリ音楽院を出て、二十歳にしてコンセール・ラムルーの独奏者にぬきんでられたと言われる。マレシャルの境地は独特で、個性的だ。
明治中興大学少助教ニぬきンデラレ、山梨県徽典館ニ掌教タリ。旧ヲ改メ新ヲクヤ群議沸騰ス。鞠躬きっきゅう緒ニ就ク。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
何時いつの世にも時流にぬきんでた芸術家はあり、数の中には、「これは」と思う作品も決して二つや三つでは無かったのであります。
学校を丹波丹六より一年先に卒業して、B興業株式会社に入ると、ぬきんでられてただちに社長秘書になり、二三年経つうちにはもう、社内で飛ぶ鳥を落す勢いになっていたのです。
平次は二本灯心とうしん行灯あんどんを引寄せて、踏台の上に腰を掛けました。広々としたお勝手は念入りに磨き抜かれて、ちり一つない有様、十七年間忠勤をぬきんでたという、お越の働き振りが思いやられます。