撫育ぶいく)” の例文
また蕃人撫育ぶいくの一方策として、台中在住の内地人官民の家庭に衣類の寄付を仰ぎ、これをトラックに積んで送った。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
そして兄たち夫婦の撫育ぶいくのもとに、五つと三つになっていた。兄たち夫婦は、その孫たちの愛と、若夫婦のために、くっくと働いているようなものであった。
蒼白い月 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
当時も四、五羽相集め、暇さいあればこれを撫育ぶいくいたしおり候に、小鳥もまた押馴おうじゅんし、食物を掌上に載せ出だせば、来たりてこれをついばみ、少しも驚愕きょうがく畏懼いくの風これなし。
妖怪報告 (新字新仮名) / 井上円了(著)
たとえば多年苦心撫育ぶいくせし子女を失いたる母親の心の如き、復活再会の希望にらずして何に依りてか慰め得よう。そして単に婦人のみに限らず男子もまた同様である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
しかして小供もまた外出がちで家にいることの少ない父親よりも、幼少の時から常住かたわらにいて撫育ぶいくしてもらう母親の方に多く熱烈な親しみを持つから、家庭教育の義務は
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
ロシアの皇帝は全くジェ・ゾンカーワの化身けしんである。ロシアの皇帝の善い事というものは、常に人民を撫育ぶいくして自由を与え、そして外国に対してはごく親切に付き合われる。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
昨年中ご減禄仰せいだされ候末のこととて、撫育ぶいく仕るべき様これなく家来ども七百戸三千七百余人の人員を移住致させ候儀にござ候へば、早速の儀、なかば漁猟によって活路をひらき
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
黙翁は老いてやむに至って、福山氏に嫁した寿美を以て、善庵にじつを告げさせ、本姓に復することを勧めた。しかし善庵は黙翁の撫育ぶいくの恩に感じてうけがわず、黙翁もまた強いて言わなかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
といってくの幼年時代から厳しくしろとは言わんが段々生長するほど子供には制裁を加えなければならん。世人せじんは二、三歳の小児を大層撫育ぶいくするが段々大きくなるほど放任してしまう。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
簡易軽便を本として万民を撫育ぶいくせられることは、彼にはありがたかった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そしてその余りの時間を南地北陽についやし、その余りの時間をダンスホールとホテルに、その余りの時間をゴルフと自動車に、その余りの時間で市会議員ともなり、その余りの時間で愛妾を撫育ぶいく
この区別を感知することは恋を失うて得たる私の唯一の知恵である。私はそれを明らかに感じ分けることができる。母親が幼児を撫育ぶいくするとき男性が女性を求むるときに働くものは本来愛ではない。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
ごうも慈母の撫育ぶいくことなることなく、終日そのかたわらほだされて、更に他意とてはなき模様なりしにぞ、両親はかえって安心のていにてみずから愛孫の世話をなしくるるようになり、またその愛孫の母なればとて
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
神の特種の撰択にかかる猶太ゆだや人民を率い世界を化して一大共和国となし、仁を施し民を撫育ぶいくし、真正の地上の王国を建立けんりつせんと、しかるに彼の良心はこの高尚なる希望をも彼に許さず
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
かつ去勢した雄鶏おす母鶏ははどりの代用として雛鳥ひなどりを親切に撫育ぶいくするから外国では盛に育雛いくすう用にも使われる。それもドウキングに限らない。雑種でも日本鶏でも去勢すればんなその通りになる。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
簡易軽便を本として万民を撫育ぶいくせられるようにと申上げたものがある。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)