撩乱りょうらん)” の例文
旧字:撩亂
柳、桜、山吹、紅梅、萌黄もえぎなどのうちぎ唐衣からぎぬなどから、鏡台のあたりには、釵子さし、紅、白粉など、撩乱りょうらんの様であった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
撩乱りょうらん目を奪うばかりの曲だ。「第三ピアノ協奏曲=ニ短調」をホロヴィッツのピアノでロンドン交響管弦団の入れたのもあったが、これは廃盤になった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
ある時は一弁いちべんの花に化し、あるときは一双いっそうちょうに化し、あるはウォーヅウォースのごとく、一団の水仙に化して、心を沢風たくふううち撩乱りょうらんせしむる事もあろうが
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それでありながら、古代ギリシャ、ロオマの巨匠きょしょう達が発見した、人間の文字通り具体的な、観念にかれぬという意味での美しさが、百花撩乱りょうらんと咲き乱れておりました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
しかも彼のあとには、彼の学派のみならず、諸子百家が撩乱りょうらんとして現われてくる。人生についてのあらゆる可能な考え方がここで尽くされたと言っても過言ではなかろう。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ならばどしゃ降りのひと雨でもあって、これ等の非自然の花野が激しい雨脚に撩乱りょうらんと踏みしだかれ、わたくしはまたフルスピードのハイヤーに乗っていて、この中を突き進む。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
実際、彼女は毎夜ごとに衣裳をとりかえ、帯をかえ、うちぎをかえたのだった。そうでもしなければ到底着つくせないほどの、撩乱りょうらんたる御衣おんぞは、もう着る機会さえもないような気がしていた。
玉章 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
死ぬるともゆずらぬほこりを持ち、国々の隅々にいたるまで、撩乱りょうらんせよ、である。
二人が外へ首を出してみると、火の子はこの家の上を撩乱りょうらんと飛んでいます。
夏は、りんどうや月見草、秋は、撩乱りょうらんといっていいほど、空地あきちはぎ桔梗ききょうは露や花を持ちきそう。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雨にれ、緑のいっそうあざやかに光りかがやく、草木のあいだに、撩乱りょうらんと咲きほこっている、紅紫黄白こうしこうはく、色とりどりの花々の美しさ、あなたは何処どこにでもいる気がふッといたしました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
今まで宗助の心に映じた御米は、色と音の撩乱りょうらんするなかに立ってさえ、きわめて落ちついていた。そうしてその落ちつきの大部分はやたらに動かさない眼の働らきから来たとしか思われなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たまたま走る夜駕の灯も絶えて、初更を過ぎかけたこの街道は、刻一刻と、夜涼の静寂しじまに澄み切って、時折、空には飛ぶ星、地には撩乱りょうらんの露草に啼きすだく虫の音があるばかり。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぜひなく道をかえて、田子たごという部落までのがれてゆく。ここは天目山の山裾という。春は撩乱りょうらんだが、見はるかす限りの野も山も今わの慰めにもならなければ頼みともならなかった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
敵味方の累々るいるいたる死屍は、松の根がたや岩角に、そのまま、撩乱りょうらんあけを見せていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秋の末——野は撩乱りょうらんの花と丈長き草におおわれていた。日もすでに暮れかけると、大陸の冷気は星をみがき人の骨に沁みてくる。啾々しゅうしゅうとして、夜は肌の毛穴を凍らすばかりの寒さと変る。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
村から四、五町ほど下流しも英田川あいだがわの河原には、撩乱りょうらんと春の草花がさいていた。お通は、負い籠をそこにおろして、蝶の群れにかこまれながら、もうそこらの花の根に、鎌の先をうごかしている——
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呼び交わし、さけび交わし、五十余名の女子たちは、撩乱りょうらん野分のわけに吹き荒らさるるお花畑の花のように、或いは横ざまに、或いは俯向うつむけに、或いは、相抱いて刺しちがえに、ことごとく自刃してしまった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)