打棄うちす)” の例文
世界の人は日本人の誰某たれそれは恩人が獄屋ひとやつながれて非常な苦しみを受けて居るのを知りつつ打棄うちすてて国に帰ってしまった。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
昼寐ひるね夜具やぐきながら墓地ぼちはう見下みおろすと、いつも落葉おちばうづもれたまゝ打棄うちすてゝあるふるびたはか今日けふ奇麗きれい掃除さうぢされて、はな線香せんかうそなへられてゐる。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
そしてそこのすみっこに、私の海水着が丸められたまま、打棄うちすてられてあるのを見た。私ははっと思った。
麦藁帽子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ああ悪い時刻に出ているなと、近所の人たちは思ったそうだが、果してその晩からいなくなった。亭主は気ちがいのようになって商売も打棄うちすてて置いてそちこちと捜しまわった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
犬狗いぬえのこのように草叢くさむら打棄うちすててありましたのを、ようやく御生前に懇意になされた禅僧のゆくりなくも通りすがった者がありまして、泣く泣くおん亡骸なきがらを取収め、陣屋の傍につくえを立て
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
これ普通ふつう塲所ばしよなら、かゝる死地しちちても、鐵車てつしやをば此處こゝ打棄うちすてゝ、そのだけまぬが工夫くふういでもないが、千山せんざん萬峰ばんぽう奧深おくふかく、數十里すうじふり四方しほうまつた猛獸まうじう毒蛇どくじや巣窟さうくつで、すで此時このとき數十すうじふ獅子しゝ
水は悪し、運搬の道具はそろわず、水は南方に流れて自分の国の方へ流れて行かぬですから、いかにしても運送の便利がない。その儘打棄うちすててあるらしく見える。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
犬狗いぬえのこのやうに草叢くさむら打棄うちすててありましたのを、やうやく御生前に懇意になされた禅僧のゆくりなくも通りすがつた者がありまして、泣く泣くおん亡骸なきがらを取収め、陣屋の傍につくえを立て
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
それを打棄うちすてて死ぬかきるか分らない国へ行くということはいかにも馬鹿ばかげた話のようですけれども
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)