我執がしゅう)” の例文
学の兄弟相かわらず随分むつまじく相交わり、互いに古学興隆の志を相励み申すべく、我執がしゅうを立て争論なぞいたし候儀これあるまじき事。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もろもろの物欲我執がしゅうにとらわれていたのが、このごろの夕立のようにスッパリと洗い落とされて、一時に開くのです、心の眼が。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
隠しても隠しきれないねた気質は、日記から読みとった作者の、どこか打解けにくいところのある、寂しい諦めと、我執がしゅうを見のがされない。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
Yは相当なところまで出世した。しかし、Yの持つて生れた度外れの気位と我執がしゅうの性質から、たうとう長上ちょうじょうと衝突して途中で辞めて仕舞しまつた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
わたくしなどは随分ずいぶん我執がしゅうつよほうでございますが、それでもだんだん感化かんかされて、肉身にくしんのお祖父様ぢいさまのようにおした申上もうしあげ、勿体もったいないとはりつつも
我執がしゅうと自負と虚偽きょぎとのわなにかかって身もだえしている嫉妬心の亡者もうじゃ、それ以外に今の自分に何が残されているというのだ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
大尉は、死際になってもまだ我執がしゅうを捨てない中尉を心から卑しみ、心から憎んだ。彼はつまらぬ暇つぶしをしたことを悔いて、そこを去ろうとした。
ゼラール中尉 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
我執がしゅうを戒めるすべての宗教は宗団を形造るではないか。隠者は去って「孤」を守る。しかし「孤」もまた、我執である。彼は「孤」を越えて「集」に入る。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
昼間、上将の間に、使者六回にも及ぶ我執がしゅうの争いが交わされていたとき、すでにこの不吉はつちかわれていたのだ。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一ノ関は家中かちゅうに紛争を起こさせようとしている、知ってのとおり、仙台びと我執がしゅうが強く、排他的で、藩家のおためという点でさえ自分の意を立てようとする、綱宗さま隠居のとき
すべては、自身の弱さから、——私は、そう重く、鈍く、自己肯定を与えているのであるが、——すべては弱さと、我執がしゅうから、私は自身の家をみずから破った。ばらばらにしちゃった。
春の盗賊 (新字新仮名) / 太宰治(著)
今なお総称の如くに用いられる土地が多く、こと我執がしゅうのない童児の群にあっては、何度でも立戻ってこういう不精確に甘んじようという風のあったことは、畢竟ひっきょうする所単語は符号であり
信仰に活くる者は体験したであろう、いかなる意味で宗祖たちが、厚く「我空がくう」を説き「無念むねん」を説いたかを。我執がしゅう有想うそうとは信仰にとっての二つの敵であった。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
つい夕方まで、叔父勝家のあれ程な命にも服さず、強硬に我執がしゅうを持していた玄蕃允も、今は
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何よりもおそろしいのは我執がしゅうのために感情があらあらしくなるだけでなく、判断力までがくらまされて、自分はいつも正しく、相手はいつも不正であるかのように考えがちになることです。
青年の思索のために (新字新仮名) / 下村湖人(著)
それを通り越して来たものは人力の如何ともすべからざること、人力以上のもののあること、それらを体験的に弁えた人であるが故に、我執がしゅうも除かれ、万事、実相に明らかな眼で誰人とも応酬出来る。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
威力の強制もなく、圧倒もなく、挑戦もない。どこに個人の変態な奇癖があり得よう。凡ての我執がしゅうはここに放棄せられ、凡ての主張は沈黙せられ、ただ言葉なき器のみが残る。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
いずれも、しずまれい。お家の重大事を、私憤とおまちがい召さるまいぞ。私議、我執がしゅうつつしまれたい。かかる際には、一藩一体となり、挙止もの静かなるこそそ目にも見事と申すもの。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
威力の強制もなく、圧倒もなく、挑戦もない。どこに個人の変態な奇癖があり得よう。すべての我執がしゅうはここに放棄せられ、すべての主張は沈黙せられ、ただ言葉なき器のみが残る。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
都もひなも、公卿も武門も、またのりの山門まで、頼む木蔭などはどこにもない。やがては、我執がしゅうと我執の争いが、乱麻らんまの修羅地獄をこの地上に呼びおろして来るのは、眼に見える心地がする
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これに比べるなら、在銘品の方にはずっと業因ごういんが深いと思われる。我執がしゅうがつきまとうからである。汗を流して働いたり、沢山作ったり、安ものを作ったりする事は、何も呪わしい事とはならぬ。
改めて民藝について (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
自分という我執がしゅうもそこからわいてくるしの……
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宗厳は、我執がしゅうの太刀をすてて
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小さい我執がしゅうをお捨てなさい。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)