懸引かけひき)” の例文
と、いつも庄造はさう答へるにまつてゐた。あの女は兎角とかく懸引かけひきが強くつて、底に底があるのだから、何を云ふやら眉唾物まゆつばものである。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
だが、尾張にその懸引かけひきがあれば三河にもまた、はかるところがあるのは当然だ。弱小なれば弱小であるほど、毅然たる態度も必要とする。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ナポレオンの様なこの方面の天才ですら、夜打朝懸ようちあさがけいくさの懸引かけひきに興味はつてゐたかも知れないが、たゞ戦ひたいから戦つたのだとは受け取れない。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
他の客が奪うようにして買って行く。段々とそうして余分に儲けるなどなかなかその懸引かけひきがあるものだといいます。けれど、こっちはそこまではやれない。
「いえ、もう、誰方樣どなたさま其處そこがお懸引かけひきでいらつしやります、へえ。」と眞面目まじめる。
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
不調法ながら拙者は、君命によって一隊の懸引かけひきを掌る役目を承っている。また、ここにいる木村、野村の両人も、同志の手に余る敵のある時、飛び出して行って加勢仕る役割、謂わば予備員でご座る。
『七面鳥』と『忘れ褌』 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
これが先方の懸引かけひきであった。
と、いつも庄造はそう答えるにまっていた。あの女は兎角懸引かけひきが強くって、底に底があるのだから、何を云うやら眉唾物まゆつばものである。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
武器のうごきも心のごとく懸引かけひきがない、大手をひろげた金右衛門の胸元へ、野槍と一緒に真っすぐに突いてかかる。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
着衣の件、喫飯きっぱんの件、談判の件、懸引かけひきの件、挨拶あいさつの件、雑話の件、すべて件と名のつくものは皆口から出る。しまいには件がなければ口から出るものは無いとまで思う。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すでにわれらの計は、遠く大坂につながり、北越とむすび、天下の風雲と、懸引かけひき呼応こおうを持っているものです。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いかにも懸引かけひきのない真情らしく、さうしんみりと訴へられてみると、それには反対が出来なかつた。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
お延にお延流の機略きりゃくがある通り、彼には彼相当の懸引かけひきがあるので、都合の悪いところを巧みに省略した、誰の耳にも真卒しんそつで合理的な説明がたやすく彼の口からお延の前に描き出された。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この日、彼の胸中は張りつめた強弓のように、そういう感情やら万策の懸引かけひきめられていたのである。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いかにも懸引かけひきのない真情らしく、そうしんみりと訴えられてみると、それには反対が出来なかった。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
このワーには厭味いやみもなければ思慮もない。理もなければ非もない。いつわりもなければ懸引かけひきもない。徹頭徹尾ワーである。結晶した精神が一度に破裂して上下四囲の空気を震盪しんとうさしてワーと鳴る。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、出兵をうながしたが利家は対上杉軍との懸引かけひきを理由に、それをことわったという説も行われている。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの女は兎角懸引かけひきが強くつて、底に底があるのだから、何を云ふやら眉唾物まゆつばものである。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
相手はようや懸引かけひきをやめた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
好色隠居の狒々ひひ顔が、とまの間からジロジロとのぞいたり、お角を相手に、お蝶の貞操の代価に露骨な懸引かけひきをかわしたりしておりましたが、やがて人肉の取引ができると
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信雄は、もう、懸引かけひきをもってはいられない調子だった。秀吉に催促されて、秀吉の代弁に来たものであることを、泣き言にも取れることばの裏に、いわないでも、自白していた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中国の戦いに先駆せんくして、織田勢の至難な先鋒をつとめていたにかかわらず、ひとたび毛利の大軍が、その孤塁をつつむや、信長の令は、前後の懸引かけひきと利害の大小をにらみあわせて
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妙なはずみで、お綱の体を渡すか渡さぬかの、懸引かけひきくらべになってしまった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
軍、外交、経済、あらゆる懸引かけひきは国々の方針によって、何とも簡単でない。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「前田はなかなか食わせ者ですぞ。あなた様のように懸引かけひきなしの肚の底まで初めから見せていては、到底、大事はげ難いばかりです。ここはもすこし、抜け目を見せる必要がありましょう」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なにしろ、お米にとっては、苦手であり、手強てごわ懸引かけひき相手である。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが、いつもながら、例の懸引かけひき知らずな若殿気質かたぎ
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)