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じやうねつ
私は
海の
空を
見た。
輝く
如きは
日本海の
波であらう。
鞍掛山、
太白山は、
黛を
左右に
描いて、
來日ヶ峰は
翠なす
額髮を
近々と、
面ほてりのするまで、じり/\と
情熱の
呼吸を
通はす。
さうかといつて、
此情熱を
焚き
盡す
程の
烈しい
活動には
無論出會はなかつた。
彼の
血は
高い
脉を
打つて、
徒らにむづ
痒く
彼の
身體の
中を
流れた。
彼は
腕組をして、
坐ながら
四方の
山を
眺めた。
彼の
作品と
彼の
盛名と
彼の
手紙、
乃至は
写真のやうなものから
想像された
年少作家大久保が、
何んなに
美しい
幻影と
憧憬心の
多い
彼女の
情熱を
唆つたかは、
竹村にも
大凡そ
想像ができるのであつた。