悪食あくじき)” の例文
旧字:惡食
「時に、今日は例の悪食あくじきの御報告を兼ねて推参、ぜっぴおともが仰せつけられたい——ところは三輪みのわ町の金座——時間は正七ツ——」
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
悪食あくじきに彷彿すとあるが、ちょうどそれと同じような作用を、このハンカチににじんだ毒薬が起しているので、如何に烈しい毒であるかは
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
親分の前だが、お宅の勘さんとあっしんとこの馬鹿野郎と来た日にゃあ、悪食あくじきの横綱ですからね。ま、なんにせえ、このお天気が儲けものでさあ。
悪食あくじき乗客の口臭と、もう随分永く女なしでいる若い旅行者たちの何というかオトコ臭い匂いとで、ムッとせかえるような実にえがたい一夜だった。
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
元来酒をたしなまざれば従つて日頃悪食あくじきせし覚えもなし。ひて罪を他に負はしむれば慶応義塾けいおうぎじゅくにて取寄する弁当の洋食にあてられしがためともいはんか。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
雉子は悪食あくじきだから、肉が臭いと聞いていたが、鍋にしてもそれほどいやな臭いはしなかった。が、なんだかすこし無気味で、あんまりうまいとも思わなかった。
雉子日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
何とも悪食あくじきがないたいた様子、お望みの猿は血を吐いてち果てておりましたに毛頭相違ござりません。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふか、つまりさめの四五百貫もある奴が時々やつて来ては漁師を驚かす。鱶は悪食あくじきで何でも食ふ。殊に人間の肉は好きのやうである。大鱶を見たらこれにからかつちや損だ。
東京湾怪物譚 (新字旧仮名) / 佐藤垢石(著)
私はかつて政治家として一方の異材と言われた、木下謙次郎きのしたけんじろう氏の書いた『美味求真』という食味道の著書の『悪食あくじき篇』にあるような、世にも浅ましい悪食に走った私の趣味を
志賀高原・熊の湯の角間かくま川で、釣ったイワナの腹を開いてみると、トカゲのとろけたのが出てきたのには驚いた。もっとも、川魚ではこのイワナが一番の悪食あくじき魚とされている。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
こいつにれるとはよっぽどの悪食あくじきらしい、ともかくどこかで逢曳きということになったが、師匠がかりの身で自由がきかない、どうか若旦那のおなさけでと、——こいつが両手を
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
食味しょくみなども、下町式のいきを好むと同時に、また無茶むちゃ悪食あくじき間食家かんしょくかでもありました。
仲間には、高村光雲氏の弟子で、泰雲といつた、蛞蝓なめくぢの好きな男もまじつてゐた。白砂糖にまぶして三十六ぴきまで蛞蝓を鵜呑うのみにしたといふ男で、悪食あくじきにかけては滅多にひとひけは取らなかつた。
ただ悪食あくじきそのものだけに、多少の好奇を感じて誘惑されて来た人もあるのですから、なかなか耳を傾けるに足る言説も出て来るのです。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ヘヘヘ、使いが荒いなんて、殿様、なんでげしょう、ちょいとお手をお出しなすったんで……こう申しちゃなんですけれど、こちらの旦那と来た日にゃ悪食あくじきだからね」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
昔から、信州人は悪食あくじきを好むときいてきた。信州国境の方では、青大将の釜蒸し。蟇の刺身。なめくじの酢のもの。鼠の裸兒の餡かけ。蜂の親を、活きているまま食うこと。
ザザ虫の佃煮 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
そんな場合には、皆の唇は紫色に腫れあがり、胸先がちくちく痛むようなことがないでもなかったが、仮にも仲間を組んで、悪食あくじきの一つもしようという輩は、そんなことには一向驚かなかった。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
かけ合ってみてごらんになっては……あなたほどの悪食あくじきですから、異人の女を食べたって、あたるようなことはございますまい
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
御馳走しろ、どのみち、毛唐けとうの食うものだから、人間並みのものを食わせろとは言わねえ、悪食あくじきを持って来て、うんと食わせろ
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その集会の目的が「悪食あくじき」であることは勿論もちろんである——悪食というのは、イカモノ食いにもっと毛を生やしたもので、食えないものを食う会である。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
三十にして身代をつぶした功の者でげして、そのかん、声色、物まね、潮来いたこ、新内、何でもござれ、悪食あくじきにかけちゃあ相当なんでげすが、まだ、みそひともじは食べつけねえんでげすが
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そうすれば、悪食あくじきをしないでも次の実りまで、きっとしのげるものでござんすよ。でござんすから二宮先生は、饑饉の年でも決して、草の根や木の皮を食えとはおっしゃいませんでした。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
金茶や木口は、武芸もやっぱり芸のうちだから芸娼院へ入れろ、刺身のツマでもいいから入れろ、とじ込んで来ているのだが、どうも、さしも悪食あくじきのビタにも、こいつはちっと買えねえよ。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
悪食あくじきをせず、その時は節食をして、一日におかゆ一ぱいだけでも食って、静かに寝て体力を養っているがいい、死なない程度に生きているがいい、そのうちには凶年という年ばかりではないからな。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「キュウリの学問が流行はやり出したら、茄子なす鴫焼しぎやきなんぞは食えなくなるだろう、そんなことは、どうでもいい、早く悪食あくじきを食わせろ、そのギュウという悪食をこれへ出せ、思うさま食ってみせる」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)