待遇もてな)” の例文
待遇もてなすやうなものではない、銚子ちょうしさかずきが出る始末、わかい女中が二人まで給仕について、寝るにも紅裏べにうら絹布けんぷ夜具やぐ枕頭まくらもとかおりこうく。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ふり残されし身一ツに、雨をも、雪をも、御案じ申し上げれども。かくと明かせぬ切なさは、世に隔てなく待遇もてなしたまふ、良人つまへ我から心の関。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
ほどなく権堂ごんどうの町へ入るには入ったが、どことて今時分、起きている気紛れはない。二三軒、宿屋を叩いてみたけれど、起きて待遇もてなそうという家もない。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
気軽に此所ここへわざわざ訪ねて来てくれられた人の心もうれしいと、私は茶など入れ、菓子などはさんで待遇もてなす。
精いっぱいに待遇もてなしたが、反対に下っ端のものには、ガミガミ頭から怒鳴りつけてばかりいた。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
唯今年の冬期休暇にお勢が帰宅した時而已のみ、十日ばかりも朝夕顔を見合わしていたなれど、小供の時とは違い、年頃が年頃だけに文三もよろずに遠慮勝でよそよそしく待遇もてなして
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
お客のない吊革は、この羊のやうな顔をした紳士を待遇もてなすやうに、幾度か鼻先で小踊りをしてみせたが、大久保氏はそんな物に頓着もなく、洋傘をついた儘じつと立ち通してゐる。
其の頃はお武家を大切にしたもので、名主年寄始め役人を鄭重ていちょう待遇もてなし、御馳走などが沢山出ました。話のついでの皿塚の事をお聞きになりまして、山川廣やまかわひろしという方が感心なされて
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あゝ斯くつれなく待遇もてなし參らするも、故内府が御恩の萬分の一に答へん瀧口が微哀、詮ずる處、君の御爲を思へばなり。御恨みのほどもさこそと思ひらるれども、今は言ひ解かんすべもなし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
母は東京で世話になる人だといつて、彼が誇張して話したとみえて、素朴ではあるが、ひどく慇懃いんぎん待遇もてなしてくれるので、彼女は挨拶に困つて、可成なるべく口を利かないことにしてゐるより外なかつた。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
田舍の素封家などにはよくある事で、何も珍しい事のない單調な家庭では、腹立しくなるまで無理に客を引き留める、客を待遇もてなさうとするよりは、寧ろそれによつて自分らの無聊を慰めようとする。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
涙は我得てこれを拭はむ、笑みはそなたに頒かたむと、世に優しくも待遇もてなさせたまふ、これがそも人生の不幸かや。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
お君の方について来た女中たちもまた、喜んでこのお客を待遇もてなしました。前の筑前守の使の者とは打って変って、打解けた気持でこの若いお客を待遇もてなすことができました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
氷月と云う汁粉屋の裏垣根に近づいた時、……秋は七草で待遇もてなしたろう、枯尾花に白い風が立って、雪が一捲ひとまき頭巾を吹きなぐると、紋の名入の緋葉もみじがちらちらと空に舞った。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
文「逢いたいが、お母様っかさんの前であんな荒々しい奴が話をしては、お驚きなさるといけないから、かど立花屋たちばなやつれって往って、酒肴さけさかなを出して待遇もてなしてくれ、己があとからお暇を戴いてくから」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
田舎の素封家ものもちなどにはよくある事で、何も珍しい事のない単調な家庭では、腹立しくなるまで無理に客を引き留める、客を待遇もてなさうとするよりは、寧ろそれによつて自分らの無聊ぶれうを慰めようとする。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
遠慮気なく余所々々よそよそしく待遇もてなす。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そこへ、弥兵衛が重太郎を連れ込んで盛んに待遇もてなす——そこで重太郎がパッタリと妹お辻にでっくわす。お辻はこの家に身を沈めて、若村という遊女になっていたのである。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
強ひては迎へず来ればよき程に待遇もてなせど、以前に変はる不愛想は、逐に金三の眼にもつきて、己れ不埓の婦人おんなめとさすがの金三も怒らぬにはあらねど、流れの身には有りがちの事と
野路の菊 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
始終出て行けがしに待遇もてなす。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
馬大尽うまだいじんの一家一門の人が、さまざまに待遇もてなすのをって辞退して帰ることにしました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
金三をもしばしば呼び迎へて快く待遇もてなしそれこれの事指図を仰ぐにぞ、金三もかかる場合ながら、新たに別荘得たる心地して、掛物もこれ、敷物もこれと、追々に本宅のもの持来りて
野路の菊 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)