引懸ひっか)” の例文
「ええと、今何でさ、合せてなんて、余計なことを言いなすった時、おやゆび引懸ひっかけて、上が下りて一ツ飛んで入りましたっけ。はてな、」
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「これを見て下さい。兄さんが気を失った室の硝子ガラス窓のところで発見したのですよ。硝子のこわれたふち引懸ひっかかっていたのですよ。ほらほら……」
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
峠路とうげみちつじや入口にある大木の高い枝に、鉤になった小枝を下から投げあげて引懸ひっかかるかどうかを試みるうらないがあって、時々は無数にその小枝のかかっているを見かけるが
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そんな男に引懸ひっかかるというのは一体どういう量見りょうけんなのでしょう。………
一夕話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
歩むたびに、ヒョコンヒョコンと、なにかに引懸ひっかかるような足つきが、まるで人造人間じんぞうにんげんの歩いているところと変らない。
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
路傍の車前おおばこくき折曲おりまげて引懸ひっか引張ひっぱり、またはすみれの花の馬の首のようになった部分を交叉こうさして、むしろその首のたやすくもげて落ちるのを、笑い興ずるようになっているが
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
御帰おかえりッ。」と書生が通ずれば、供待ともまちの車夫、つくぼうて直す駒下駄を、爪先に引懸ひっかけつ、ぞろりとつまを上げて車に乗るを、物蔭よりおはしたのぞきて、「いつ見ても水が垂るようだ。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
薄紅色うすべにいろ透取すきとお硝子杯コップの小さいのを取って前に引いたが、いま一人哲学者と肩をならべて、手織の綿入に小倉こくらはかまつむぎの羽織を脱いだのを、ひも長く椅子の背後うしろに、裏をかえして引懸ひっかけて
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中を割って引懸ひっかけにぐいと結んだ帯の背後うしろへ、軍鶏をかばったのはお夏である。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白い脚絆きゃはん、素足に草鞋穿わらじばきすそ端折はしょった、中形の浴衣に繻子しゅすの帯の幅狭はばぜまなのを、引懸ひっかけに結んで、結んだ上へ、桃色の帯揚おびあげをして、胸高に乳の下へしっかとめた、これへ女扇をぐいと差して
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むつまじやかなる談話はなしの花を、心無くも吹散らす、疾風一陣障子を開けて、お丹例のごとく帯もしめず、今起き出でたる風情にて、乱れ姿に広袖どてら引懸ひっかけ、不作法に入来いりきたりて、御両方おふたかたの身近に寄り
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぞんざいに黒い裏を見せてひっくり返っているのを、白い指でちょいと直し、素足に引懸ひっかけ、がたり腰障子を左へ開けると、十時過ぎの太陽が、向うの井戸端の、柳の上からはすっかけに、あまね射込さしこんで
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)