広袤こうぼう)” の例文
旧字:廣袤
例えば雪嶺附近や鶴長項、黄土岩附近のものは、二千米を下らない高さで広袤こうぼう十二キロにもわたっていて、斯様かようなものがなお他にも二、三ある。
高原 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
長さ十二マイル、幅八マイルくらいの小さい島であって、広袤こうぼう数千マイルの南太平洋の中では、砂粒のような島である。
牛の丸焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「あの辺一帯の平地は、広袤こうぼうとして、一目にちょっと気づかれぬが、仔細に地勢を察するなら、湖の底にいるも同じだということがわかるはずだ」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小高き丘に上りしほどに、ふと足下あしもとに平地ありて広袤こうぼう一円十町余、その一端には新しき十字架ありて建てるを見たり。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
広袤こうぼう八里のこの大都会の中には無量数百万の生活が犇めき合い、たぎり立ち、いま呱々の声を上げ、終臨の余喘に喘ぐ。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その都会の西方より北方へかけては広袤こうぼう千里の大沃野となって、そこにはおびただしい牛や羊が放牧せられ、小麦も耕作せられ、言葉が通ぜぬからハッキリとはわからぬが
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
近年君の画を見るにややその嗜好を変じ今日にては必ずしもパノラマ的全景をのみ喜ぶ者には非るべけれどなほややもすれば広袤こうぼうの大なる場所を貴ぶの癖なきに非ず。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「まだおわかりにならぬか、——それにひきかえ、土地は年々産みだすもの、われらこのたび求めた北海道の土地は、広袤こうぼう百里、埴土しょくど肥厚、かならず百年の計が立ちまする」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
ツンドラ地帯とは蘚苔せんたい類の層積から成る幌内川の沿岸は広袤こうぼう数十里に亘る地帯のいいである。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
私の情意の直観的な識別力と広袤こうぼうを求める私の知識慾の遠心力とが、ともすれば新しきもの奇らしきもの病的なるものと親しもうとする私の性格の雰囲気への耽溺と陶酔とを妨害することができた。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
また、お味方もここを出て進むとすれば、必定ひつじょう、その会戦の地は、香椎かしい筥崎はこざきノ宮との間——多々羅たたらはまからあのあたりの広袤こうぼうでしかございませぬ
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
広袤こうぼう二里に余る山ふところの諸所に、一かたまりの部落が点在して、青々とした水田を見るのに驚くであろう。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
広袤こうぼう百里、樹木鬱蒼うっそうたりと聞き伝えた平原であった。そこを灌漑する川は沼から来る川の意味によって、トウベツ河と名づけられていた。間もなく合するのは大いなるイシカリ川。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
この深さで広袤こうぼう実に百二十哩という、前古未曾有みぞうの大渦巻が大円を描いて轟々ごうごうえ狂っている物すごさ、恐ろしさ、すさまじさというものを皆様は一体御想像になり得るものでありましょうか?
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
木村隼人佑はやとのすけ、浅野日向、小姓組の面々も、秀吉のことばに、初めて広袤こうぼうな焦土の中に、その異様なる一群の人間がいることを知り、みな不審そうな眼をこらしていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ごらん下さいましたか? サッポロ府の広袤こうぼうは方一里、オダル、ゼニバコ街道とチトセ越えの本願寺街道も通じました、——これを取り巻く農村は、庚午こうご一、二、三と合せて九十六戸の二百人
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
若夫もしそれ奥仙丈山の条を今日の地図と照し合せて見たならば、本郡の極北と云い、其北は信州武州の界十文字嶺に接すと云い、山内の広袤こうぼうと云い、あたかも甲武信岳を中心として東西に連亘れんこうした山脈が
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
ぶななら、檜などの大木があるが、其北は広袤こうぼう数里にわたって、小灌木の外には殆ど目を遮る大木もなく、北には根原、西北には麓、西南には猪之頭、南には人穴と、遠く半円形に人家が点在している。
春の大方山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)