帰途かえるさ)” の例文
旧字:歸途
それにてわれも会得したり。いまだ鷲郎にも語らざりしが。昨日朱目が許より帰途かえるさ、森の木陰を通りしに、われを狙ふて矢を放つものあり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
学校の帰途かえるさ驟雨にわかあめに逢えば、四辻から、紺蛇の目で左褄ひだりづまというのが出て来て、相合あいあいで手をいて帰るので、八ツ九ツ時分、梓はひどく男の友人にうとんじられた。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
或日黄金丸は、用事ありて里に出でし帰途かえるさ、独り畠径はたみち辿たどくに、見れば彼方かなたの山岸の、野菊あまた咲き乱れたるもとに、黄なるけものねぶりをれり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
かれは旅団の留守なりし、いま山狩の帰途かえるさなり。ハタと面を合せる時、相隔ること三十歩、お通がその時の形相はいかにすさまじきものなりしぞ尉官は思わず絶叫して
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
僕もその席に侍りて、先のほどまで酒みしが、独り早く退まかいでつ、その帰途かえるさにかかる状態ありさま、思へば死神の誘ひしならん
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
向島むこうじまの百花園に行った帰途かえるさ三囲みめぐりのあたりから土手へさっと雲がかかって、大川が白くなったので、仲見世前まで腕車くるまで来て、あれから電車に乗ろうとしたが、いつもの雑沓ざっとう
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……松崎は実は、うらわかい娘の余り果敢はかなさに、亀井戸もうで帰途かえるさ、その界隈かいわいに、名誉の巫子いちこを尋ねて、そのくちよせを聞いたのであった……霊のきたったさまは秘密だから言うまい。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と言いかけて身体からだごと、この巌殿いわどから橿原かしわばらへ出口の方へ振向いた。身の挙動こなし仰山ぎょうさんで、さも用ありげな素振そぶりだったので、散策子もおなじくそなたを。……帰途かえるさかれにはあたかも前途ゆくてに当る。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黄昏の頃油揚坂より続々として曳出ひきいだす、馬車、腕車数十輛、失望、不平、癇癪かんしゃくなどいう不快なる熟字を載せたるは、これ貴婦人の帰途かえるさにて、むだになりたる百余俵の施与米を荷車に積みて逆戻り
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)