巻紙まきがみ)” の例文
旧字:卷紙
役人溜りでは、夜詰よづめの同心がちょうど手紙を書きだしたところで、巻紙まきがみに「拝啓はいけい陳者のぶれば……」と書きかけ、そのすずりの水もまだ乾いていない……
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
手紙は書き終らずにめたものらしく、引きいた巻紙まきがみと共に文句は杜切とぎれていたけれど、読み得るだけの文字で十分に全体の意味を解する事ができる。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こういって置いて、貞固はほとんど同じような文句を巻紙まきがみに書いた。そしてそれを東堂の手にわたした。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
擲銭てきせんが終った時、老人は巻紙まきがみを眺めたまま、しばらくはただ考えていた。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
婿君むこぎみのふみながら、衣絵きぬゑさんのこゝろつたへた巻紙まきがみを、繰戻くりもどすさへ、さら/\と、みどりなす黒髪くろかみまくらみだるゝおとかんじて、つめたいまでさむくしながらも、そのは、つゝしんたいしたのである。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そしてもう一度そこの店から巻紙まきがみを買って、硯箱すずりばこを借りて、男恥ずかしい筆跡で、出発前にもう一度乳母を訪れるつもりだったが、それができなくなったから、この後とも定子をよろしく頼む。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
きちがふところから取出とりだしたのは、巻紙まきがみ矢立やたてであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
手紙は書きをはらずにめたものらしく、引きいた巻紙まきがみと共に文句もんく杜切とぎれてゐたけれど、読みるだけの文字で十分に全体の意味を解する事ができる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)