工廠こうしょう)” の例文
オリオン号は造船工廠こうしょうの近くに停泊していた。そしてなお艤装ぎそうしたまま修繕されていた。船体は右舷では少しも損んでいなかった。
そこでは吐き出された炭酸瓦斯ガスが気圧を造り、塵埃を吹き込む東風とチブスと工廠こうしょうの煙ばかりが自由であった。そこには植物がなかった。
街の底 (新字新仮名) / 横光利一(著)
雷神山の急昇りな坂をあがって、一畝ひとうねり、町裏の路地の隅、およそ礫川こいしかわ工廠こうしょうぐらいは空地くうちを取って、周囲ぐるりはまだも広かろう。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一たいカワカミなんかに、英国海軍工廠こうしょうが秘密に建造したディーゼル・エンジンの運転ができるはずがないではないか。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私共が故郷の金沢から始めて東京に出た頃は、水道橋から砲兵工廠こうしょう辺はまだ淋しい所であった。焼鳥の屋台店などがあって、人力車夫が客待をしていた。
それは長吉のおいの音蔵であった。音蔵は砲兵工廠こうしょうに勤めていて、病菌が入ったので脚を切断したものであった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
染屋、革はぎ、飾り師、小札こざね鍛冶、弓師、鎧師よろいしなど、すべて武具の一大工廠こうしょうともいえる職人町の横丁だった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一二度店頭みせさきへ訪ねて来たことがあったが、お島はそれの始末をつけるために、砲兵工廠こうしょうの方へ通っている或男を見つけて、二人を夫婦にしてやったのであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
砲兵工廠こうしょうの煙突から吐き出す毒々しい煤煙けむりの影には遠く日本銀行かなんかの建物がかすかに眺められた。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
雨はやっとあがったようですが、空はまだ冷たい鉛のように重く見えたので、私は用心のため、じゃを肩にかついで、砲兵ほうへい工廠こうしょうの裏手の土塀どべいについて東へ坂をりました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二人は砲兵工廠こうしょうの赤煉瓦塀に添うて足の向くまま富坂を小石川の方へと上って行った。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
砲兵工廠こうしょうの煙突の煙が、風向きに逆って流れたり、く人もないニコライの寺の鐘が、真夜中に突然鳴り出したり、同じ番号の電車が二台、前後して日の暮の日本橋を通りすぎたり
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「なあに、あれはお前もよく知っている、伊号いごう第五潜水艦なんだよ。ただ呉の海軍工廠こうしょうで、すっかり造り変えたもんだから、形が違って見えるんだ。ね、以前は二十糎砲なんか、なかっただろう。」
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
それから三ヶ月の間かかって、岡部伍長がはじめて設計した地下戦車が、工廠こうしょうの中で、実物に仕上がった。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
器用者の侯健こうけんは、やき物の窯場かまばも設けて、陶器すえものを焼きはじめ、武器の工廠こうしょうでは、連環れんかん馬鎧うまよろいからカギ鎗、葉鉄うすがねよろい、またあらゆる兵具を、日夜さかんに作っていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主人は砲兵工廠こうしょうの職工あがりだったが、芸者に出してあった娘に好い運がおとずれ、親たちもこの商売に取りつき、好況時代にめきめき羽を伸ばしたのだったが、ある大衆ものの大作家が
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
本国から随伴してきた工廠こうしょう技師の厳密な試験によりまして、七個からなる忠魂塔の各区分には、いささかの罅も入っていない実に立派なものであるということを証拠だてることができました。
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
工廠こうしょう鎚音つちおとは水泊にえ、不死身の鉄軍も壊滅し去ること
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
工廠こうしょうで作りあげられ、海をはしるようになってからまだ一箇月にもなりません。いままでの戦艦とはちがって、たいへんスピードが早く、これまでの戦艦とは全くちがった不思議な形をしていました。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)